『少女』(湊かなえ)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/12 『少女』(湊かなえ), 作家別(ま行), 書評(さ行), 湊かなえ

『少女』湊 かなえ 双葉文庫 2012年2月19日第一刷

親友の自殺を目撃したことがあるという転校生の告白を、ある種の自慢のように感じた由紀は、自分なら死体ではなく、人が死ぬ瞬間を見てみたいと思った。自殺を考えたことのある敦子は、死体を見たら、死を悟ることができ、強い自分になれるのではないかと考える。ふたりとも相手には告げずに、それぞれ老人ホームと小児科病棟へボランティアに行く - 死の瞬間に立ち合うために。高校2年の少女たちの衝撃的な夏休みを描く長編ミステリー。(双葉文庫)

改めて『告白』を読んでみたらえらく面白かったので、ならこれはどうだろうと - 100万部突破の大ベストセラーで、もうすぐ映画も公開されるという - 著者の第二作『少女』を読んでみました。

(湊かなえがかつてそんな少女であったのかどうかはさておき)なるほど、人が死ぬのを間近で見てみたいと思う由紀や、死体を見ると死を悟ることができ、自分が今より強くなれるのではないかと考える敦子の気持ちは分からぬではありません。

ある日の学食でのこと - 転校生の紫織は「親友が自殺した直後の姿を見たことがある」と言い出します。由紀と敦子の2人は、最初かわいそうにと思いながら紫織の話を聞いていたのですが、その内由紀に限って、少し違うのではないかという気がしてきます。

親友の死を悲しんでいる、というよりは、うっとりと自分に酔いしれているような・・・・。

ねえ、聞いて! わたしの親友は死んでしまったの。わたしは今、必死でその悲しみを乗り越えようとしているの。わたしは本当の「死」を知っているの。だから、他の子たちとは違うの。あんたたちとは違うの - そんな心の声が聞こえてきそうに思えます。

それってただの、自慢じゃないの - そう思う一方で、しかし、由紀は少しうらやましくも感じます。不幸自慢ほど恥ずかしいものはないが、もししなければならないのなら、わたしにだって紫織に負けない自信はある。けれど、それを言って紫織はうらやましいと思うだろうか - 由紀はひそかにそんなことを考えています。

由紀の左手の甲には、上下を分断するような太いみみず腫れが走っています。紫織にその理由を訊かれ、上手く返事が出来ないでいると、「ムリに言わなくてもいいよ。由紀も辛いことがあったんだよね。なんか、わかる・・・・」

うっとりと紫織につぶやかれた瞬間、パチンと何かがはじけるような感覚がして、無性に腹が立ってきます。- わかるもんか! あの地獄のような生活が、簡単にわかってたまるか! 死体を見たくらいで何もかもわかっているような口をきくな! - 心で叫んではみるものの、

それでも(やっぱり死体を見たことがない)由紀は、どうあっても死体を見たいと思うようになります。紫織が見たのが自殺直後の死体であったとするなら、わたしは人の死ぬ瞬間を見てみたい。紫織が見たのが親友であるなら、わたしもそれくらいには身近な人で・・・・と思うようになります。
・・・・・・・・・
夏休み。互いに何の連絡もせず、各々の目的を内に秘め、由紀はS大学附属病院小児科病棟へ、敦子は特別養護老人ホームへとボランティア活動に出かけて行きます。

最初はバラバラ、何ら関係ないと思われたそれぞれの活動が、やがて因果な人と人との繋がりの中で少しずつ重なっているのが明らかになって行きます。それは2つの施設内にいる人物に止まらず、かつての担任教師や紫織の父親にまで及びます。

冒頭と終章に置かれた、「遺書」があります。この物語はどこにもいるような、一見似た者同士の2人の女子高生の友情を描いた物語であると同時に、遺書の書き手をめぐる物語でもあります。

誰が何のために書き遺した「遺書」であるのか? 由紀が書いた一編の小説『ヨルの綱渡り』と題したそれは、何を目途として書き上げられたものなのか? 2人の夏休みの計画に寄り添うようにして、それらの内容も徐々に明らかになっていきます。

キーワードは『因果応報! 地獄に堕ちろ! 』- これは、以前由紀が彼女の祖母に言われた言葉です。由紀にとって祖母はひたすら邪魔なだけのどこか別の世界へ消えてほしいと願う存在です。敦子は敦子で、内に強烈なトラウマを抱え、時に過呼吸で動けなくなります。

果たして誰のどんな行為が因となり、如何なる報いとして善か悪かの結果がもたらされることになるのでしょうか。由紀と敦子は当初目論んだ思いを成就し、死の本当の意味を知り、死を悟ることが出来たのでしょうか。

いや、それよりむしろ、更に思いもかけない事態になるに至って、既に2人は最初抱いた目的をきれいさっぱり忘れてしまっているやも知れません。しかしそれで終わったのかといえばそうではなく、彼女らの抱える混沌は尚一層深みを増したようにも思えます。

この本を読んでみてください係数  80/100


◆湊 かなえ
1973年広島県因島市中庄町(現・尾道市因島中庄町)生まれ。
武庫川女子大学家政学部卒業。

作品 「告白」「贖罪」「Nのために」「夜行観覧車」「望郷」「往復書簡」「境遇」「サファイア」「母性」「絶唱」「ユートピア」他多数

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