『余命一年、男をかう』(吉川トリコ)_書評という名の読書感想文
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『余命一年、男をかう』(吉川トリコ), 作家別(や行), 吉川トリコ, 書評(や行)
『余命一年、男をかう』吉川 トリコ 講談社文庫 2024年5月15日 第1刷発行
「いきなりで悪いんだけど、お金持ってない?」 この一言からすべてが変わった -

楽しくなくても、平気で生きてきたはずなのに。コスパ重視の独身女性が、年下男に数十万円を渡してはじまる涙と笑いの物語
節約とキルト作りが趣味の40歳独身、片倉唯。健やかでコスパのいい老後を迎えるために頑張っていたが、無料で受けた検診で子宮がんと告知される。病院のロビーで会計待ちをする唯に、ピンクの髪の男がお金を貸してほしいと頼んできた。人生はどこまでお金で割り切れるのか。涙と笑いの第28回島清恋愛文学賞受賞作。(講談社文庫)
この物語の主人公・片倉唯が言うには 「節約は最高のエンターテイメントであり暇つぶしだ」 と。日々の楽しみは一日の終わりに資産管理アプリで資産総額を確認することで、銀行口座とか証券口座とかクレジットカードとか各種ポイントカードとかを紐づけて、一目で把握できるようになっており、それを見ているだけで何杯でもお茶が飲める、そう言って憚りません。
彼女のただ一つの人生の目標は 「お金も時間も労力もすべて自分のためだけに使い、病めるときもすこやかなるときも自分で自分に責任を持って生きる」 「だれに頼ることもなく一人で生きていけるだけのお金を稼いで、収支トントンで終える」 こと。この先もずっと、そのはずでした。
『余命一年、男をかう』 のタイトルには 「かう」 という言葉が入っている。その名の通り、これは始まりから終わりにいたるまで、私たち現代人が 「いったいなにを買っているのか」 をつきつけてくる物語だ。
四十歳の会社員である唯の買うものは決まっている。コスパのいいものだ。「だれに頼ることもなく一人で生きていけるだけのお金を稼いで、収支トントンで終えること」 という信条に貫かれた彼女の生活ぶりは徹底されている。二十歳でマンションを買い、本は図書館か古本、お酒も飲まず、昼は手作りの弁当、美容院には行かず髪は伸ばしっぱなし、余剰資金は投資に回す。ハイリスクハイリターンなものすべてを削ぎ落し生きている唯はこう語る。
恋愛はコスパが悪いからしたくない。
結婚も出産も同様の理由でパス。
他人と生きるということは、不確実性が増すということだ。そんな危険な投資に時間や労力を注ぎ込みたくない。ж
しかし、そんな唯の日常に大きな変化が訪れる。
余命一年だと告げられるのである。医師は続けて治療すれば治ることを説明しようとするが、唯は余命があと何年かを尋ねる。そして、これでやっと死ねる、という安堵をおぼえる。(解説より)
唯がおぼえた、この 「これでやっと死ねる、という安堵」 - の裏にはりついた “現実“ こそが問題だと思うのですが、それはさておき、死ぬと決めた彼女は、「あと一年で死ぬなら、節約なんてもうしない」 と。そう決意したとき、突然目の前に現れたのが、その場にあまりに不似合いな、いかにもチャラそうな、一人の男でした。唯は、自分でも思いもしなかった行動に出ます。
病院で初めて会った年下のホスト・瀬名吉高の父の入院費の支払いを肩代わりし、その返済のかわりに一時間一万円、計七十時間分、彼と過ごす契約を結ぶ。キリギリスのように生きる彼とともに、あれほど回避してきたハイリスクハイリターンの日々をはじめるのだ。(同解説)
※「余命もの」 ではありますが、悲愴でも何でもありません。むしろコミカルで、ところどころ、少し胸が痛みます。軽妙さに、騙されてはいけません。
この本を読んでみてください係数 85/100

◆吉川 トリコ
1977年静岡県浜松市生まれ。愛知県名古屋市在住。
愛知淑徳短期大学文芸学科卒業。
作品 「しゃぼん」「グッモーエビアン! 」「戦場のガールズライフ」「ミドリのミ」「名古屋16話」「光の庭」「マリー・アントワネットの日記」シリーズ「夢で逢えたら」他多数
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