『春の庭』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/11 『春の庭』(柴崎友香), 作家別(さ行), 書評(は行), 柴崎友香

『春の庭』柴崎 友香 文春文庫 2017年4月10日第一刷

東京・世田谷の取り壊し間近のアパートに住む太郎は、住人の女と知り合う。彼女は隣に建つ「水色の家」に、異様な関心を示していた。街に積み重なる時間の中で、彼らが見つけたものとは - 。第151回芥川賞に輝く表題作に、「糸」「見えない」「出かける準備」の三篇を加え、作家の揺るぎない才能を示した小説集。解説・堀江敏幸 (文春文庫)

読み慣れないものを読んでしまった。そんな感じがします。解説者が堀江敏幸というのもそうで、たぶん私なんかには理解できないことが書いてあるんだろうと。

案の定、(難しくはないのですが)読むと、それがどうしたの? みたいなことばかりが書いてあります。何がよくて芥川賞なのか、さっぱりわかりません。

でも、しょうがない。つらつら思い直して考えるに、(この話には)並みの人間では思いもつかない、とても重大な何かが秘められているんだろうと。それが証拠に、帯の裏には「何かが始まる気配。見えなかったものが見えてくる。」とあります。
・・・・・・・・・
太郎の暮らすアパート「ビューパレス サエキⅢ」は近々取り壊す予定で、元いた住人の大方は既に部屋を出ており、太郎の他には中年女性が一人と、「西」という名の独身女性が残るばかりになっています。

太郎の部屋は1階、中年女性と西の部屋は2階にあります。(L字になった建物の2階の一番奥にあるのが西の部屋です)

話の発端 -

西は、アパートと隣り合わせに建つ「水色の家」に異常なまでの関心を寄せています。2階のベランダ越しに見える家の様子を熱心にスケッチしたり、人知れず中へ忍び込もうとしたりします。それを太郎は、何気に下の階から眺めています。

その内二人は口をきくようになり、西がなぜそれほどまでに「水色の家」に関心を寄せているかの理由がわかります。彼女が愛してやまないのが「春の庭」と題した写真集で、そこに収められているのが、まさに目の前に建つ「水色の家」だったのです。

「春の庭」は、20年前、隣家(「水色の家」)に住むある夫婦の日常生活を撮影した写真集で、夫は35歳のCMディレクター、牛島タローという男性で、妻は27歳になる小劇団の女優、馬村かいこという女性です。

西は、(牛島タローの気取った作風が好みではなかったものの)彼と馬村かいこがお互いを撮影し合った「春の庭」という作品は、とてもいい写真集だと思っています。

「水色の家」は、現実の西の生活の中では見慣れないものばかりで出来上がっており、彼女は何より、全面に黄緑色のモザイクタイルが貼られた不思議な模様の風呂場が気に入っています。

ガウディが造ったアパートの壁を思い出した。それほど趣味がいいとは思わなかったが、こんな風呂場を希望した人と、作った人と、そして毎日この浴槽に入る人がいると思うと、なんだか笑えてくるのだった。

長い間空き家だった後、「水色の家」には森尾さん一家が引っ越して来ます。実和子は二人の幼い子供の母親で、西よりもずいぶんと若く見えます。人の良さそうな実和子をして、西は彼女にとり入り、あわよくば家に上がり込めないだろうかと策を巡らせます。

一方、太郎はというと、これがわからないのですが、(西のこととは別にして)彼は彼として生きているには違いないのですが、どこか茫洋として掴みどころがありません。西に対する彼の態度も、これといったことはなく、何が起きるというわけでもありません。

太郎と西とはあくまで同じアパートに住む住人で、それ以上でも以下でもなく、太郎はむしろ西との関わりを最小限に留めたいと思いながら、それでもズルズルと西の誘いに乗り、飲み屋へ行き、彼女の長話に付き合ったりします。

この本を読んでみてください係数  80/100

◆柴崎 友香
1973年大阪府大阪市大正区生まれ。
大阪府立大学総合科学部国際文化コース人文地理学専攻卒業。

作品 「きょうのできごと」「次の駅まで、きみはどんな歌をうたうの?」「青空感傷ツアー」「フルタイムライフ」「また会う日まで」「その街の今は」「寝ても覚めても」他多数

関連記事

『白衣の嘘』(長岡弘樹)_書評という名の読書感想文

『白衣の嘘』長岡 弘樹 角川文庫 2019年1月25日初版 苦手な縫合の練習のため

記事を読む

『ヘヴン』(川上未映子)_書評という名の読書感想文

『ヘヴン』川上 未映子 講談社文庫 2012年5月15日第一刷 「わたしたちは仲間です」- 十

記事を読む

『藤色の記憶』(あさのあつこ)_書評という名の読書感想文

『藤色の記憶』あさの あつこ 角川文庫 2020年12月25日初版 ※本書は、201

記事を読む

『本を読んだら散歩に行こう』(村井理子)_書評という名の読書感想文

『本を読んだら散歩に行こう』村井 理子 集英社 2022年12月11日第3刷発行

記事を読む

『北斗/ある殺人者の回心』(石田衣良)_書評という名の読書感想文

『北斗/ある殺人者の回心』石田 衣良 集英社 2012年10月30日第一刷 著者が一度は書き

記事を読む

『刑罰0号』(西條奈加)_書評という名の読書感想文

『刑罰0号』西條 奈加 徳間文庫 2020年2月15日初刷 祝 直木賞受賞!

記事を読む

『ここは私たちのいない場所』(白石一文)_あいつが死んで5時間後の世界

『ここは私たちのいない場所』白石 一文 新潮文庫 2019年9月1日発行 順風満帆

記事を読む

『よだかの片想い』(島本理生)_書評という名の読書感想文

『よだかの片想い』島本 理生 集英社文庫 2021年12月28日第6刷 24歳、理

記事を読む

『ボーンヤードは語らない』(市川憂人)_書評という名の読書感想文

『ボーンヤードは語らない』市川 憂人 創元推理文庫 2024年6月21日 初版 人気のない

記事を読む

『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』(桜木 紫乃)_書評という名の読書感想文

『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』桜木 紫乃 角川文庫 2023年12月25日 初版発行

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『少女葬』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文

『少女葬』櫛木 理宇 新潮文庫 2024年2月20日 2刷

『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』(麻布競馬場)_書評という名の読書感想文

『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』麻布競馬場 集英社文庫 2

『これはただの夏』(燃え殻)_書評という名の読書感想文

『これはただの夏』燃え殻 新潮文庫 2024年9月1日発行 『

『小さい予言者』(浮穴みみ)_書評という名の読書感想文

『小さい予言者』浮穴 みみ 双葉文庫 2024年7月13日 第1刷発

『タラント』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『タラント』角田 光代 中公文庫 2024年8月25日 初版発行

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑