『乙女の家』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/11 『乙女の家』(朝倉かすみ), 作家別(あ行), 書評(あ行), 朝倉かすみ

『乙女の家』朝倉 かすみ 新潮文庫 2017年9月1日発行

内縁関係を貫いた曾祖母、族のヘッドの子どもを高校生で産んだシングルマザーの祖母、普通の家庭を夢見たのに別居中の母、そして自分のキャラを探して迷走中の娘の若菜。強烈な祖母らに煽られつつも、友の恋をアシスト、祖父母の仲も取り持ち大活躍の若菜と、それを見守る家族。それぞれに、幸せはやって来るのか・・・・・・・。(新潮社)

長く曾祖父の愛人のような立場だった曾祖母、和子。16歳で妊娠し高校を中退した元ツッパリの祖母、洋子。二人を反面教師に、理想の家庭というものに拘る母、あゆみ。3人はまるで違うキャラクターなのですが、ひとつ、共通する「もの」があります。

歳は違えど、(今なお)3人は「乙女」みたいに浮き立つ「女心」を持っています。それに対し娘の若菜は、〈これといったキャラクターがない自分〉をひどく気にしています。彼女は、自分が「付和雷同型」の人間で、何ら主張することなく、

水中をただようクラゲのよう」に「友だちや、家族のあいだで、ぷかぷか浮かんでいるだけ」の存在だと思っています。そうではなくて、

あるいはそうであるからこそ、若菜は、他者に対し自分をたしかに特徴付ける、如何にも彼女らしいと思われる、新たな「人物像」を創り出そうと躍起になっています。

若菜が欲しているのは、「自分が望む自分の姿」ではなく、彼女を見て他人が思う「イメージ」のことです。彼女は自分が「主役」であろうとしているわけではありません。むしろ望んでいるのは「脇役」で、いつも、誰に対しても「キュートな脇役」でありたいと願っています。

若菜がしているのは「自分探し」ではなく、今の自分ではない、別の「誰か」になりたいということ。それが為、彼女は「文学少女キャラ」一直線の高橋さんと友だちになり、それまでの自分を一掃しリスタートしようと、2人で家出を企んだりします。

第1章 家出してみよう
第2章 多忙になってみよう
第3章 病弱になってみよう
第4章 告白してみよう
第5章 遠くをながめてみよう

※若菜が自分の考えや思いを書き留めているノートがあります。ノートのタイトルは「WTC」。「ワカナノトチュウ」のアルファベット表記の略です。17歳の若菜の、「途中」の言葉、それまでに気付いたことや考えたこと、「わかった」と思うことが綴られています。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆朝倉 かすみ
1960年北海道小樽市生まれ。
北海道武蔵女子短期大学教養学科卒業。

作品 「田村はまだか」「夏目家順路」「玩具の言い分」「感応連鎖」「肝、焼ける」「遊佐家の四週間」「ロコモーション」「恋に焦がれて吉田の上京」他多数

関連記事

『ある日 失わずにすむもの』(乙川優三郎)_書評という名の読書感想文

『ある日 失わずにすむもの』乙川 優三郎 徳間文庫 2021年12月15日初刷 こ

記事を読む

『永遠の1/2 』(佐藤正午)_書評という名の読書感想文

『永遠の1/2 』佐藤 正午 小学館文庫 2016年10月11日初版 失業したとたんにツキがまわっ

記事を読む

『阿蘭陀西鶴』(朝井まかて)_書評という名の読書感想文

『阿蘭陀西鶴』朝井 まかて 講談社文庫 2016年11月15日第一刷 江戸時代を代表する作家・井原

記事を読む

『兄の終い』(村井理子)_書評という名の読書感想文

『兄の終い』村井 理子 CCCメディアハウス 2020年6月11日初版第5刷 最近読

記事を読む

『正欲』(朝井リョウ)_書評という名の読書感想文

『正欲』朝井 リョウ 新潮文庫 2023年6月1日発行 第34回柴田錬三郎賞受賞!

記事を読む

『愛すること、理解すること、愛されること』(李龍徳)_書評という名の読書感想文

『愛すること、理解すること、愛されること』李 龍徳 河出書房新社 2018年8月30日初版 謎の死

記事を読む

『いけない』(道尾秀介)_書評という名の読書感想文

『いけない』道尾 秀介 文春文庫 2022年8月10日第1刷 ★ラスト1ページです

記事を読む

『おめでとう』(川上弘美)_書評という名の読書感想文

『おめでとう』川上 弘美 新潮文庫 2003年7月1日発行 いつか別れる私たちのこの

記事を読む

『ある男』(平野啓一郎)_書評という名の読書感想文

『ある男』平野 啓一郎 文藝春秋 2018年9月30日第一刷 [あらすじ] 弁護士

記事を読む

『人間タワー』(朝比奈あすか)_書評という名の読書感想文

『人間タワー』朝比奈 あすか 文春文庫 2020年11月10日第1刷 桜丘小学校の

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『ケモノの城』(誉田哲也)_書評という名の読書感想文

『ケモノの城』誉田 哲也 双葉文庫 2021年4月20日 第15刷発

『嗤う淑女 二人 』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『嗤う淑女 二人 』中山 七里 実業之日本社文庫 2024年7月20

『闇祓 Yami-Hara』(辻村深月)_書評という名の読書感想文

『闇祓 Yami-Hara』辻村 深月 角川文庫 2024年6月25

『地雷グリコ』(青崎有吾)_書評という名の読書感想文 

『地雷グリコ』青崎 有吾 角川書店 2024年6月20日 8版発行

『アルジャーノンに花束を/新版』(ダニエル・キイス)_書評という名の読書感想文

『アルジャーノンに花束を/新版』ダニエル・キイス 小尾芙佐訳 ハヤカ

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑