『あなたが消えた夜に』(中村文則)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
最終更新日:2024/01/10
『あなたが消えた夜に』(中村文則), 中村文則, 作家別(な行), 書評(あ行)
『あなたが消えた夜に』中村 文則 朝日文庫 2018年11月15日発行
連続通り魔殺人事件の容疑者 “コートの男” を追う所轄の刑事・中島と捜査一課の女刑事・小橋。しかし、それはさらなる悲劇の序章に過ぎなかった。世界の片隅で求め合う男と女。極限の愛が狂気に変わる時、「人間」 を超えた殺人者の終わりなき 《復讐》 が始まる - 。
神にも愛にも見捨てられた人間を、人は救うことができるのか。〈純文学×警察小説〉 かつてない衝撃! 圧倒的人間ドラマ! 待望の文庫化。(毎日新聞出版)
一つの殺人事件が起こります。数日後、それとは別に、ある傷害事件が起こります。年が明けてすぐのこと、今度は殺人と傷害、二つの事件が起こります。
目撃情報をもとに、それは “コートの男” 連続通り魔事件 と名付けられます。正式には 「市高町連続通り魔事件」。死者が二人になり、小さな町に、マスコミが群れとなって押しかけます。この段階での事実関係は、こうです。
① 12月21日午前2時30分から午前3時、竹林結城(40)が路上で殺害される。
② 12月28日午前1時15分頃、主婦A(横川佐和子《36》)が路上で切りつけられる。
③ 1月4日午前3時から午前3時30分、スポーツクラブの社長、真田浩二(41)が路上で殺害される。
④ 同1月4日午前9時頃、女性Bが高柳大助(28)に路上で切りつけられる。高柳大助は逮捕。 ※その後、全国に通り魔事件が多発する。市高町を除くと、その数は十件に及ぶ。
しばらくして、また事件が起こります。
⑤ 2月21日午前3時頃、精神科医、米村辻彦(45)が車内で死んでいるのが発見される。遺書に自分が “コートの男” であると記されていたが、一連の目撃情報と体型が違い過ぎている。
次に、捜査を続ける中で警察(のみ)が知り得た情報が、こうです。
1.③件目の被害者(真田)の靴下に付着していた青い繊維が、⑤件目の米村(精神科医)のクリニックの絨毯のものであったこと。
2.⑤件目の米村の遺書には、①件目と③件目の事件について、犯人しか知り得ない情報が記されていたこと。
3.③件目の被害者の口内には焼けた痕があり、⑤件目の犯行現場では死亡していた米村の運転免許証が燃やされていること。
4.③件目の被害者(真田)の知人(初川綱紀)が、⑤件目の米村のクリニックに行っていること。保険証提示の記録はあるが、そのカルテが破棄されていること。その初川は現在フィリピンにおり、部屋に空き巣が入っていること。米村のクリニックに行ったのは、その空き巣をした人物である可能性が高いこと。
確かに、初川のことは無視して、④の高柳が “コートの男” であり、米村のクリニックに行き犯行を伝えたとすれば全てすっきりする。犯行を止められなかったか、もしくはそそのかした米村は自殺。
でも高柳がクリニックに行った形跡はない。米村との関係性も依然見えてこない。改めて見ても、意味がわからない。(ここまでで183ページあります)
※さすがという他ありません。刑事の中島が言う通り、ここまで読んだだけでは何が何だかさっぱりわかりません。単なる通り魔事件でないのはわかるのですが、では、各々がどう繋がっており、どんな関係があるのか。ないのか。まるで予測がつきません。
最初読者は、犯人は誰か、誰が “コートの男” なのかと、そればかりが気になって仕方ないはずです。そちらに気を取られ、つい、これが “並みのサスペンスではない” のを忘れてしまうかも知れません。
話は、途中思わぬ人物らが登場し - 実はかれらこそがこの物語における最重要人物なのですが - 事件はまるで違う形へと変化していきます。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆中村 文則
1977年愛知県東海市生まれ。
福島大学行政社会学部応用社会学科卒業。
作品 「銃」「遮光」「悪意の手記」「土の中の子供」「王国」「掏摸」「何もかも憂鬱な夜に」「最後の命」「悪と仮面のルール」「教団X」「その先の道に消える」他多数
関連記事
-
『やさしい猫』(中島京子)_書評という名の読書感想文
『やさしい猫』中島 京子 中央公論新社 2023年5月30日8版発行 吉川英治文学
-
『生きてるだけで、愛。』(本谷有希子)_書評という名の読書感想文
『生きてるだけで、愛。』本谷 有希子 新潮文庫 2009年3月1日発行 あたしってなんでこんな
-
『インストール』(綿矢りさ)_書評という名の読書感想文
『インストール』綿矢 りさ 河出書房新社 2001年11月20日初版 この小説が文藝賞を受賞
-
『俺はまだ本気出してないだけ』(丹沢まなぶ)_書評という名の読書感想文
『俺はまだ本気出してないだけ』丹沢 まなぶ 小学館文庫 2013年4月10日第一刷 元々は青
-
『ふる』(西加奈子)_書評という名の読書感想文
『ふる』西 加奈子 河出文庫 2015年11月20日初版 繰り返し花しすの前に現れる、何人も
-
『あなたの涙は蜜の味|イヤミス傑作選』(宮部みゆき 辻村深月他)_書評という名の読書感想文
『あなたの涙は蜜の味|イヤミス傑作選』宮部みゆき 辻村深月他 PHP文芸文庫 2022年9月22日
-
『田舎の紳士服店のモデルの妻』(宮下奈都)_書評という名の読書感想文
『田舎の紳士服店のモデルの妻』宮下 奈都 文春文庫 2013年6月10日第一刷 東京から夫の故郷に
-
『死にゆく者の祈り』(中山七里)_書評という名の読書感想文
『死にゆく者の祈り』中山 七里 新潮文庫 2022年4月15日2刷 死刑執行直前か
-
『ゴースト』(中島京子)_書評という名の読書感想文
『ゴースト』中島 京子 朝日文庫 2020年11月30日第1刷 風格のある原宿の洋
-
『私は存在が空気』(中田永一)_書評という名の読書感想文
『私は存在が空気』中田 永一 祥伝社文庫 2018年12月20日初版 ある理由から