『ふたりぐらし』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/07 『ふたりぐらし』(桜木紫乃), 作家別(さ行), 書評(は行), 桜木紫乃

『ふたりぐらし』桜木 紫乃 新潮文庫 2021年3月1日発行

元映写技師の夫・信好は、看護師の妻・紗弓と二人暮らし。映画脚本家の夢を追い続けて定職はなく、ほぼ妻の稼ぎで食べている。当の妻は、余裕のない生活で子供を望むこと、義母との距離、実母との確執など、家族の形に悩む日々だ。幸せになるために生涯を誓ったはずなのに、夫婦とは、結婚とは、一体何だろう。夫婦が夫婦になっていく “家族のはじまり” を、夫と妻交互の視点で描く連作短編集。(新潮文庫)

不惑の夫・信好には決まった仕事がありません。仕事に就く気がないのは、(映画の) 脚本家になる夢を諦めきれずにいるためです。

妻の紗弓は看護師をしています。二人は狭いアパート暮らしだったのですが、それとても、紗弓の稼ぎがあればこそのことでした。生活はギリギリで、子供を持つことは叶いません。じきに彼女は、三十六歳になります。

節約も最初のころは趣味にすればよしと思っていたけれど、月給のほとんどが生活に消えてゆく日々が続くと心が荒むのか、ときおりやりきれない思いに襲われる。

いつまでこんな感じかな - 子供を持つことも躊躇うような日々が、期限付きではないことが気がかりだった。(「家族旅行」 より)

信好の母・テルが亡くなった後、二人はアパートを出て、テルのかつての住まいであり、信好の実家でもある古い平屋の一軒家へと引っ越します。そこで暮らすと決めたのは、妻の紗弓の方でした。

その後信好は、紗弓の父からの紹介で決まった仕事に就けるのですが、収入は十分といえず、生活は中々に思い通りにはいきません。紗弓がする節約にはさらに磨きがかかり、信好の夢は夢であり続けます。紗弓が母となる期限は、間近に迫っています。

※仕事やお金。老いた親のこと。子供のこと。おまけに、不倫疑惑。二人は大いに悩むのですが、かと言って、慌てる素振りも焦る様子も見せません。流れに任せ、折り合いをつけながら、慎み深く暮らしています。二人は、どこも、何も、不幸に見えません。

結局のところ、これは著者が意図して書いた、究極の “のろけ” 話ではないのかと。そんな風にも思えてきます。こんな夫であったなら、こんな妻であったなら。こんなふたりであったならと - 読んだあなたはきっと思うはずです。

この本を読んでみてください係数  80/100

◆桜木 紫乃
1965年北海道釧路市生まれ。
高校卒業後裁判所のタイピストとして勤務。

作品 「起終点駅/ターミナル」「凍原」「氷平線」「ラブレス」「ホテルローヤル」「硝子の葦」「星々たち」「ブルース」「霧/ウラル」「砂上」「家族じまい」他多数

関連記事

『七緒のために』(島本理生)_書評という名の読書感想文

『七緒のために』島本 理生 講談社文庫 2016年4月15日第一刷 転校した中学で、クラスメイ

記事を読む

『ふたりの距離の概算』(米澤穂信)_書評という名の読書感想文

『ふたりの距離の概算』米澤 穂信 角川文庫 2012年6月25日初版 春を迎え高校2年生となっ

記事を読む

『坊さんのくるぶし/鎌倉三光寺の諸行無常な日常』(成田名璃子)_書評という名の読書感想文

『坊さんのくるぶし/鎌倉三光寺の諸行無常な日常』成田 名璃子 幻冬舎文庫 2019年2月10日初版

記事を読む

『ふたたび嗤う淑女』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『ふたたび嗤う淑女』中山 七里 実業之日本社文庫 2021年8月15日初版第1刷

記事を読む

『ただいまが、聞きたくて』(坂井希久子)_書評という名の読書感想文

『ただいまが、聞きたくて』坂井 希久子 角川文庫 2017年3月25日発行 埼玉県大宮の一軒家に暮

記事を読む

『僕の神様』(芦沢央)_書評という名の読書感想文

『僕の神様』芦沢 央 角川文庫 2024年2月25日 初版発行 あなたは後悔するかもしれない

記事を読む

『ひとでちゃんに殺される』(片岡翔)_書評という名の読書感想文 

『ひとでちゃんに殺される』片岡 翔 新潮文庫 2021年2月1日発行 表紙の絵とタイ

記事を読む

『はるか/HAL – CA』(宿野かほる)_書評という名の読書感想文

『はるか/HAL - CA』宿野 かほる 新潮文庫 2021年10月1日発行 「再

記事を読む

『天国はまだ遠く』(瀬尾まいこ)_書評という名の読書感想文

『天国はまだ遠く』瀬尾 まいこ 新潮文庫 2022年5月25日 29刷 著者史上

記事を読む

『月蝕楽園』(朱川湊人)_書評という名の読書感想文

『月蝕楽園』朱川 湊人 双葉文庫 2017年8月9日第一刷 癌で入院している会社の後輩。上司から容

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『悪逆』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『悪逆』黒川 博行 朝日新聞出版 2023年10月30日 第1刷発行

『エンド・オブ・ライフ』(佐々涼子)_書評という名の読書感想文

『エンド・オブ・ライフ』佐々 涼子 集英社文庫 2024年4月25日

『アトムの心臓 「ディア・ファミリー」 23年間の記録』(清武英利)_書評という名の読書感想文

『アトムの心臓 「ディア・ファミリー」 23年間の記録』清武 英利 

『メイド・イン京都』(藤岡陽子)_書評という名の読書感想文

『メイド・イン京都』藤岡 陽子 朝日文庫 2024年4月30日 第1

『あいにくあんたのためじゃない』(柚木麻子)_書評という名の読書感想文

『あいにくあんたのためじゃない』柚木 麻子 新潮社 2024年3月2

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑