『爆弾』(呉勝浩)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/05 『爆弾』(呉勝浩), 作家別(か行), 呉勝浩, 書評(は行)

『爆弾』呉 勝浩 講談社 2023年2月22日第8刷発行

爆発 大ヒット中! 第167回直木賞候補作
このミステリーがすごい! 2023年版 国内編第1位
ミステリが読みたい! 2023年版 国内編第1位
本屋大賞ノミネート

敵は、たった一人の無敵の人“  東京、炎上。正義は、守れるのか。

些細な傷害事件で、とぼけた見た目の中年男が野方署に連行された。
たかが酔っ払いと見くびる警察だが、男は取調べの最中 「十時に秋葉原で爆発がある」 と予言する。
直後、秋葉原の廃ビルが爆発。まさか、この男 “本物” か。さらに男はあっけらかんと告げる。
「ここから三度、次は一時間後に爆発します」。
警察は爆発を止めることができるのか。爆弾魔の悪意に戦慄する、ノンストップ・ミステリー。(講談社)

微罪で捕まったスズキタゴサク、49歳 - いかにもな偽名に思われるのですが、本人はそれが正真正銘の本名だと言い、それは最後までそうであり続けます - と取り調べに当たる警察官の清宮や類家との攻防、長時間にわたる心理戦こそが読みどころだろうと。

スズキがした “予言” が (予言通りに) 現実となり、署内はにわかに色めき立ちます。スズキはそれが “霊感” だと言い 「霊感だけはちょっと自信がある」 のだと周囲を煙に巻くような発言を繰り返します。

連続して起こる爆発は、本当にスズキが仕組んだものなのか。その目的は。その方法は。そして、いつ終わるのか・・・・・・・。スズキは結局、最後の最後まで “白状” することはありません。

酔った勢いで酒屋の自動販売機を蹴りつけ、止めに来た店員を殴り逮捕されたスズキタゴサク四十九歳。警察も 〈立件する意欲はない〉 ほど些細な傷害事件の加害者であるスズキはしかし、取り調べの最中に 〈刑事さんの役に立つ〉 予知を伝える、と言い出した。

確証のある裏情報などではない。ただの霊感、閃きのようなものだと述べながら、次々と都内で発生する 「爆発」 を予告。その予告通りに秋葉原と東京ドーム付近で爆破事件が発生する。所轄署で、のらりくらりと取り調べを受けていた小太りの冴えないチンケな傷害犯スズキは、連続爆破テロ事件の容疑者かつ無差別に都民の命を狙う爆弾魔と目され、警察は目の色を変えていく。

ところが、シビアな状況に反し、スズキタゴサクはともすれば無邪気にさえ映る態度でペラペラと身の上話や過去を語り、対峙する警察相手にゲームやクイズを持ちかける。この会話に何の意味があるのか。出題されるクイズの 「正解」 は何なのか。そもそもこの男は本当に爆弾魔なのか。翻弄されながら、その真偽を、そこに潜む本心を知りたいと乞い、やがてスズキタゴサクに魅入られていることに気付かされる。(以下略/藤田香織 「好書好日」 より)

※スズキと、特に類家とのやり取りは、つい最近観た将棋のタイトル戦のようで、相手の先の先を読み、その裏をかく一手を捻り出し、タイミングを見計らって駒を打ち出す気鋭の棋士のような - そんな (行間を支配する) “間合い” のようなものに溢れています。

押されているのは、類家でした。スズキは終始冷静で、顔色を変えることもありません。平身低頭で、偉ぶる素振りも見せません。爆弾で人が死んだと聞いても、まるで他人事のような様子でいます。話は行ったり来たり、まるで要領を得ません。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆呉 勝浩
1981年青森県生まれ。
大阪芸術大学映像学科卒業。

作品 「ロスト」「蜃気楼の犬」「道徳の時間」「白い衝動」「ライオン・ブルー」「スワン」「おれたちの歌をうたえ」他多数

関連記事

『ひざまずいて足をお舐め』(山田詠美)_書評という名の読書感想文

『ひざまずいて足をお舐め』山田 詠美 新潮文庫 1991年11月25日発行 SMクラブの女王様が、

記事を読む

『銀の夜』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『銀の夜』角田 光代 光文社文庫 2023年11月20日 初版1刷発行 「これは、私たちにと

記事を読む

『やわらかな足で人魚は』(香月夕花)_書評という名の読書感想文

『やわらかな足で人魚は』香月 夕花 文春文庫 2021年3月10日第1刷 一体どう

記事を読む

『泡沫日記』(酒井順子)_書評という名の読書感想文

『泡沫日記』酒井 順子 集英社文庫 2016年6月30日第一刷 初体験。それは若者だけのもので

記事を読む

『白昼夢の森の少女』(恒川光太郎)_書評という名の読書感想文

『白昼夢の森の少女』恒川 光太郎 角川ホラー文庫 2022年5月25日初版 地獄を

記事を読む

『ぴんぞろ』(戌井昭人)_書評という名の読書感想文

『ぴんぞろ』戌井 昭人 講談社文庫 2017年2月15日初版 浅草・酉の市でイカサマ賭博に巻き込ま

記事を読む

『連鎖』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『連鎖』黒川 博行 中央公論新社 2022年11月25日初版発行 経営に行き詰った

記事を読む

『グロテスク』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『グロテスク』桐野 夏生 文芸春秋 2003年6月30日第一刷 「人は自分のためにしか生きられな

記事を読む

『肉弾』(河﨑秋子)_書評という名の読書感想文

『肉弾』河﨑 秋子 角川文庫 2020年6月25日初版 大学を休学中の貴美也は、父

記事を読む

『ファイナルガール』(藤野可織)_書評という名の読書感想文

『ファイナルガール』藤野 可織 角川文庫 2017年1月25日初版 どこで見初められたのか、私には

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『あいにくあんたのためじゃない』(柚木麻子)_書評という名の読書感想文

『あいにくあんたのためじゃない』柚木 麻子 新潮社 2024年3月2

『執着者』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文

『執着者』櫛木 理宇 創元推理文庫 2024年1月12日 初版 

『オーブランの少女』(深緑野分)_書評という名の読書感想文

『オーブランの少女』深緑 野分 創元推理文庫 2019年6月21日

『揺籠のアディポクル』(市川憂人)_書評という名の読書感想文

『揺籠のアディポクル』市川 憂人 講談社文庫 2024年3月15日

『海神 (わだつみ)』(染井為人)_書評という名の読書感想文

『海神 (わだつみ)』染井 為人 光文社文庫 2024年2月20日

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑