『愛されなくても別に』(武田綾乃)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/05 『愛されなくても別に』(武田綾乃), 作家別(た行), 書評(あ行), 武田綾乃

『愛されなくても別に』武田 綾乃 講談社文庫 2023年7月14日第1刷発行

幸せ じゃなくたって、私たちは生きていく。愛情は、すべてを帳消しにできる魔法じゃない。家族、友人、お金、愛 - 本当に必要なものを問う、シスターフッドの傑作。

大学の学費と毎月家に入れる八万円を稼ぐため、日夜バイトに明け暮れる宮田陽彩。唯一の家族である母は浪費家で、友達もおらず、遊ぶ時間もない。そんな宮田の空虚な日常は、父親が殺人犯だと噂される同級生・江永雅と出会ったことで一変する! 心ふるわすシスターフッドの傑作。吉川英治文学新人賞受賞作。(講談社文庫)

※シスターフッド:姉妹愛を意味する英語。女性同士の連帯と訳されることもある。(Wikipedia)

武田綾乃の

宮田と江永のほかにもう一人、木村もまた同様に、華やぐべきはずの学生時代にあって、およそ真逆のような日々を送っています。というか、三人は三様に、並の大学生にはあるまじき事情を抱えています。皆が孤独で、その元凶は親にありました。できるなら、親を捨てたいと考えています。

孤独を関係性のなかでほどいていく営み。それが作家・武田綾乃の主題であることを、本書はまざまざと見せつける。

本作の主人公・宮田は、コンビニのバイトで月二十万ほどを稼ぐ女子大生である。彼女は、バイト先の同僚から 「大学生なのになぜそんなにバイトに精を出しているのか」 と訝しがられている。しかし彼女にはバイトに精を出さざるを得ない事情があった。自分で学費を払い、家にもお金を入れているからだ。彼女の母親は、娘に生活を依存していた。

バイトに忙しい宮田は、大学の授業も休んでしまう時があり、友達や恋人をつくったり、サークル活動をしたりする余裕がない。しかし、とあるきっかけから、同じ大学に通うバイト先の同僚・江永と関わることになる。江永もまた、家庭環境にかなり問題を抱えた女子大生だったのである。

大学生の貧困問題をはじめとして、毒親、性風俗、宗教にハマる少女など、現代の若者を取り巻く社会問題を煮詰めたような物語ではある。しかしただの貧困ルポルタージュに終始しているわけではない。武田綾乃は、彼女たちの、孤独に焦点を当てる。(解説より)

※陽彩の母は、別れた夫から入るはずだった養育費の代わりに毎月8万円、当の陽彩に家に入れろと言ったのでした。加えて自分の学費は自分で払い、おまけに家事のすべてを押し付けたのでした。

雅の父は、過去に人を殺したことがあると噂されています。生きるため、母から身売りを強要され、そのうち雅はそれが “癖” になります。

木村水宝石の家は資産家でした。母は毎月一度九州からやってきて、あれやこれやと娘の世話を焼きます。その度が過ぎても、水宝石はどうすることもできません。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆武田 綾乃
1992年京都府宇治市生まれ。
同志社大学文学部卒業。

作品 第8回日本ラブストーリー大賞最終候補作に選ばれた 『今日、きみと息をする。』 が2013年に出版されデビュー。『響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏学部へようこそ』 がテレビアニメ化され話題に。他に 「君と漕ぐ」 シリーズ、石黒くんに春は来ない」「青い春を数えて」など

関連記事

『あのこは貴族』(山内マリコ)_書評という名の読書感想文

『あのこは貴族』山内 マリコ 集英社文庫 2019年5月25日第1刷 TOKYO

記事を読む

『ディス・イズ・ザ・デイ』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『ディス・イズ・ザ・デイ』津村 記久子 朝日新聞出版 2018年6月30日第一刷 なんでそんな吐瀉

記事を読む

『あたしたち、海へ』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『あたしたち、海へ』井上 荒野 新潮文庫 2022年6月1日発行 親友同士が引き裂

記事を読む

『入らずの森』(宇佐美まこと)_書評という名の読書感想文

『入らずの森』宇佐美 まこと 祥伝社文庫 2016年12月31日第6刷 陰惨な歴史

記事を読む

『海よりもまだ深く』(是枝裕和/佐野晶)_書評という名の読書感想文

『海よりもまだ深く』是枝裕和/佐野晶 幻冬舎文庫 2016年4月30日初版 15年前に文学賞を

記事を読む

『海』(小川洋子)_書評という名の読書感想文

『海』小川 洋子 新潮文庫 2018年7月20日7刷 恋人の家を訪ねた青年が、海か

記事を読む

『臣女(おみおんな)』(吉村萬壱)_書評という名の読書感想文

『臣女(おみおんな)』吉村 萬壱 徳間文庫 2016年9月15日初版 夫の浮気を知った妻は身体が巨

記事を読む

『愛がなんだ』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『愛がなんだ』角田 光代 角川 文庫 2018年7月30日13版 「私はただ、ずっと彼のそばにはり

記事を読む

『徴産制 (ちょうさんせい)』(田中兆子)_書評という名の読書感想文

『徴産制 (ちょうさんせい)』田中 兆子 新潮文庫 2021年12月1日発行 「女に

記事を読む

『あのひと/傑作随想41編』(新潮文庫編集部)_書評という名の読書感想文

『あのひと/傑作随想41編』新潮文庫編集部 新潮文庫 2015年1月1日発行 懐かしい名前が

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『連続殺人鬼カエル男 完結編』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『連続殺人鬼カエル男 完結編』中山 七里 宝島社 2024年11月

『雪の花』(吉村昭)_書評という名の読書感想文

『雪の花』吉村 昭 新潮文庫 2024年12月10日 28刷

『歌舞伎町ゲノム 〈ジウ〉サーガ9 』(誉田哲也)_書評という名の読書感想文

『歌舞伎町ゲノム 〈ジウ〉サーガ9 』誉田 哲也 中公文庫 2021

『ノワール 硝子の太陽 〈ジウ〉サーガ8 』(誉田哲也)_書評という名の読書感想文

『ノワール 硝子の太陽 〈ジウ〉サーガ8 』誉田 哲也 中公文庫 2

『救いたくない命/俺たちは神じゃない2』(中山祐次郎)_書評という名の読書感想文

『救いたくない命/俺たちは神じゃない2』中山 祐次郎 新潮文庫 20

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑