『赤い部屋異聞』(法月綸太郎)_書評という名の読書感想文

『赤い部屋異聞』法月 綸太郎 角川文庫 2023年5月25日初版発行

ミステリ界随一 名手の超絶技巧!  江戸川乱歩、ジョン・コリア、都築道夫・・・ 古今東西の傑作ミステリを再構築。オマージュの概念を塗り替える、ミステリ愛読者必読の全9篇!

K氏には人目をはばかる趣味がある。同士と共に面白半分に解剖を見学したり、降霊術を実践したりと、モラルに反する遊戯にふけっているのだ。しかし新顔のT氏は、それらを一笑に付した。自分が行うのは、正真正銘の人殺し。しかも、99人の命を徒に奪っておきながら少しも罪に問われないと言うのだ - 。江戸川乱歩の名篇 「赤い部屋」 にさらなる捻りを加えた表題作はじめ、古今東西の傑作推理小説をオマージュした瞠目の全9篇! (角川文庫)

本を読み出したのは高校生になってすぐの頃でした。癖になり、それが今でも続いています。駅前にある小さな本屋で初めて買ったのは、春陽文庫から出ていた 「江戸川乱歩全集」 の中の一冊でした。ピンクがかったグロテスクでエロチックかつ幻想的な表紙とそれにたがわぬ内容に魅了され、おそらく全集すべてを読みました。「推理小説」 ばかりを読んで過ごした三年間でした。1970年代のことです。

(この本に関しては) 多少古さは感じるものの、年を取った私には何ら違和感はありません。「ああ、こんな風な文章だったな」と、当時のあれやこれやを思い出し、懐かしくもありました。但し、(情けなく残念なことですが) 私はオマージュされた元の作品をほとんど知りません。

今の、若い人にとってはどうなんでしょう。謎を解明する過程で語られる詳細かつ丁寧な解説は、理解するのに相応の気力が必要で、ややもするとまどろっこしく感じられるかもしれません。もっとストレートに、もっとわかりやすく書いてほしいと思うかもしれません。

さらに案ずるに、果たしてテーマそのものに興味があるかどうかが問題で、江戸川乱歩や都築道夫・・・ そんな作家の名前すら知らないという人にとっては、オマージュもくそもありません。いくら著者による一作毎の解説付とはいえ、読む気が失せてしまわないかが心配です。

※実を言いますと、「赤い部屋」 のことはすっかり忘れています。ひょっとすると、読んだ気でいるだけかもしれません。そんなはずはないと思うのですが、何せ50年も前のことなんで・・・・・・・

この本を読んでみてください係数  80/100

◆法月 綸太郎
1964年島根県松江市生まれ。
京都大学法学部卒業。

作品 「密閉教室」「都市伝説パズル」「生首に聞いてみろ」「頼子のために」「一の悲劇」「キングを探せ」「ノックス・マシン」他多数

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