『夜葬』(最東対地)_書評という名の読書感想文

『夜葬』最東 対地 角川ホラー文庫 2016年10月25日初版


夜葬 (角川ホラー文庫)

ある山間の寒村に伝わる風習。この村では、死者からくりぬいた顔を地蔵にはめこんで弔う。くりぬかれた穴には白米を盛り、親族で食べわけるという。この事から、顔を抜かれた死者は【どんぶりさん】と呼ばれた - 。スマホにメッセージが届けば、もう逃げられない。【どんぶりさん】があなたの顔をくりぬきにやってくる。脳髄をかき回されるような恐怖を覚える、ノンストップホラー。第23回日本ホラー小説大賞・読者賞受賞作! (角川ホラー文庫)

その本の背表紙には【最恐スポットナビ】と書いてあります。手に取って見ると、良く言えばシンプルで読みやすい、悪く言えば色が多くて安っぽい印象の、コンビニでよく見かけるタイプの本です。

パラパラとページをめくると目に飛び込んでくるのは、写真と色味の多いカラーの特集ページ。ひと際目立つイラストが描いてあります。・・・・【どんぶりさん】? 顔に穴が空いており気持ちが悪いにもかかわらず、どこか間抜けな、ふざけたネーミングではあります。

見開きの左側を丸々1ページ使って、顔の真ん中にまん丸い穴が空き、目も鼻も口もない女性の絵が描かれています。右のページには『忘れられた孤独の集落に血塗られた葬送の儀式』とあり、穴空き人間とその村の風習についてが写真付きで綴られています。

日頃は臆病なあなたでさえ、怖いもの見たさでつい手に取って読みたくなるような、如何にも興味本位な記事ではありますが・・・・、しかしです。

それは、決して読んではならない「記事」なのです。読めば、今度はあなたが【どんぶりさん】になります。

【夜葬(やそう)】
栃木県の山奥に位置する外界と完全に隔離された鈍振(どんぶり)村に古くから伝わる風習。この村では、人の顔は『神からの借りもの』と信じられている。死後は老若男女問わず顔をくりぬかれ、神様に返すものとされた。魂=神様からの借りもの(顔)は、顔を抉られた地蔵にはめ込み返した。それを【どんぶり地蔵】と呼んだという。
一方で神様に顔を返した死者は、幽世(かくりょ)へ渡る船として扱われる。幽世に着くまで腹が減らないようにと、くりぬいた顔に山盛りの炊き立ての白米を盛られる。このことから、この村では顔を抜かれた死者の事を【どんぶりさん】と呼び、それが村名の由来にもなった。【どんぶりさん】が、幽世へ船(身体)に乗って旅立つのは決まって夜とされ、この村での死者を弔う儀式は必ず夜に行われる。それがこの【夜葬】と呼ばれる鈍振村独自の葬送風習である。《ヴィンチ出版発行 最恐スポットナビより》

鈍振(どんぶり)村に、どんぶり地蔵、死んだ人をして【どんぶりさん】とは・・・・

軽めのタッチで、はじめはたいして怖くもないだろうと。およそ考えられない展開についても、(いつかどこかで)きっとオチがあるんだろうと思いながら読んでいました。

ところが、そうではなかったのです。最後の最後に一番の恐怖があり、収まるどころか事態は更に悪化します。

 

この本を読んでみてください係数 80/100


夜葬 (角川ホラー文庫)

 

◆最東 対地
1980年大阪府交野市生まれ。大阪府在住。

作品 本作で第23回日本ホラー小説大賞・読者賞を受賞。

関連記事

『四十回のまばたき』(重松清)_書評という名の読書感想文

『四十回のまばたき』重松 清 幻冬舎文庫 2018年7月25日18版 四十回のまばたき (幻冬

記事を読む

『夜に星を放つ』(窪美澄)_書評という名の読書感想文

『夜に星を放つ』窪 美澄 文藝春秋 2022年7月30日第2刷発行 第167回 直木

記事を読む

『心淋し川』(西條奈加)_書評という名の読書感想文

『心淋し川』西條 奈加 集英社文庫 2023年9月25日 第1刷 「誰の心にも淀み

記事を読む

『刑罰0号』(西條奈加)_書評という名の読書感想文

『刑罰0号』西條 奈加 徳間文庫 2020年2月15日初刷 刑罰0号 (徳間文庫) 祝

記事を読む

『ユリゴコロ』(沼田まほかる)_書評という名の読書感想文

『ユリゴコロ』沼田 まほかる 双葉文庫 2014年1月12日第一刷 ユリゴコロ (双葉文庫)

記事を読む

『私の息子はサルだった』(佐野洋子)_書評という名の読書感想文

『私の息子はサルだった』佐野 洋子 新潮文庫 2018年5月1日発行 私の息子はサルだった (

記事を読む

『君の膵臓をたべたい』(住野よる)_書評という名の読書感想文

『君の膵臓をたべたい』住野 よる 双葉社 2015年6月21日第一刷 君の膵臓をたべたい

記事を読む

『ニューカルマ』(新庄耕)_書評という名の読書感想文

『ニューカルマ』新庄 耕 集英社文庫 2019年1月25日第一刷 ニューカルマ (集英社文庫

記事を読む

『きみの町で』(重松清)_書評という名の読書感想文

『きみの町で』重松 清 新潮文庫 2019年7月1日発行 きみの町で (新潮文庫) あ

記事を読む

『ただいまが、聞きたくて』(坂井希久子)_書評という名の読書感想文

『ただいまが、聞きたくて』坂井 希久子 角川文庫 2017年3月25日発行 ただいまが、聞きたくて

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『にぎやかな落日』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文

『にぎやかな落日』朝倉 かすみ 光文社文庫 2023年11月20日

『掲載禁止 撮影現場』 (長江俊和)_書評という名の読書感想文

『掲載禁止 撮影現場』 長江 俊和 新潮文庫 2023年11月1日

『汚れた手をそこで拭かない』(芦沢央)_書評という名の読書感想文

『汚れた手をそこで拭かない』芦沢 央 文春文庫 2023年11月10

『小島』(小山田浩子)_書評という名の読書感想文

『小島』小山田 浩子 新潮文庫 2023年11月1日発行

『あくてえ』(山下紘加)_書評という名の読書感想文

『あくてえ』山下 紘加 河出書房新社 2022年7月30日 初版発行

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑