『その可能性はすでに考えた』(井上真偽)_書評という名の読書感想文

『その可能性はすでに考えた』井上 真偽 講談社文庫 2018年2月15日第一刷

山村で起きたカルト宗教団体の斬首集団自殺。唯一生き残った少女には、首を斬られた少年が自分を抱えて運ぶ不可解な記憶があった。首無し聖人伝説の如き事件の真相とは? 探偵・上苙丞はその謎が〈奇蹟〉であることを証明しようとする。論理の面白さと奇蹟の存在を信じる斬新な探偵にミステリ界激賞の話題作。(講談社文庫)

※以下はこの小説に関する著者自身のコメント。

本作の主人公・上苙丞(うえおろ・じょう)は、探偵です。
探偵小説における探偵とは、古来より「謎」を解く者 - 例えば一見不可能に見える犯罪が実は可能であることを示したり、摩訶不思議な怪奇現象の原因をつきとめたり、些細で不可解な人間の行動からとんでもない真実を導いたりするのが、彼あるいは彼女らの役割であり真骨頂です。

けれど、この男は違います。

この男は、一見不可能なことを、「本当に不可能だと証明」しようとします。

いわば探偵の本分を逸脱しているわけです。では仮にそんな男が存在した場合、そこには探偵小説としていったいどんな物語が紡がれるのか - という興味を主軸に、そこに中国人キャラとか奇蹟とか聖人伝説とか拷問知識とか諸々ぶっこんでごった煮にして撹拌して出来たのが、この作品です。

決して万人の好む味とは言いませんが、とにかくインパクトのある味には仕上がったと思います。そんなこんなで多少力業ではありますが、半年間の作者の懊悩と煩悶を込めた全力のトリック、どうぞお受け取りください! (「講談社BOOK倶楽部」より)

- そもそも、著者の名前からして変で、井上真偽は「いのうえ・しんぎ」ではなく、「いのうえ・まぎ」と読みます。

膨大な知識と論理を盾にとんでもないことを考える - 東京大学や京都大学を出た人の中には、時にこんな変人が現れる。奇蹟がこの世に存在することを証明するために、すべてのトリックが不成立であることを立証する、・・・・・・・って?

よくよく考えて、ようやくに、どういうことかがわかります。さらに言えば、

この - 中国人キャラとか奇蹟とか聖人伝説とか拷問知識とか諸々ぶっこんでごった煮にして撹拌して出来た物語 - が、案外「ヒューマン」な話であるのに気付きます。

この本を読んでみてください係数  80/100

◆井上 真偽
神奈川県生まれ。東京大学卒業。

作品 「恋と禁忌の述語論理」「聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた」「言の葉の子ら」「探偵が早すぎる」など

関連記事

『芝公園六角堂跡/狂える藤澤清造の残影』(西村賢太)_書評という名の読書感想文

『芝公園六角堂跡/狂える藤澤清造の残影』西村 賢太 文春文庫 2020年12月10日第1刷

記事を読む

『生存者ゼロ』(安生正)_書評という名の読書感想文

『生存者ゼロ』安生 正 宝島社文庫 2014年2月20日第一刷 北海道根室半島沖に浮かぶ石油掘

記事を読む

『かか』(宇佐見りん)_書評という名の読書感想文

『かか』宇佐見 りん 河出書房新社 2019年11月30日初版 19歳の浪人生うー

記事を読む

『死体でも愛してる』(大石圭)_書評という名の読書感想文

『死体でも愛してる』大石 圭 角川ホラー文庫 2020年8月25日初版 台所に立っ

記事を読む

『二千七百の夏と冬』(上下)(荻原浩)_書評という名の読書感想文

『二千七百の夏と冬』(上下)荻原 浩 双葉文庫 2017年6月18日第一刷 [物語の発端。現代の話

記事を読む

『くちなし』(彩瀬まる)_愛なんて言葉がなければよかったのに。

『くちなし』彩瀬 まる 文春文庫 2020年4月10日第1刷 別れた男の片腕と暮ら

記事を読む

『オロロ畑でつかまえて』(荻原浩)_書評という名の読書感想文

『オロロ畑でつかまえて』 荻原 浩 集英社 1998年1月10日第一刷 萩原浩の代表作と言えば、

記事を読む

『サンブンノニ』(木下半太)_書評という名の読書感想文

『サンブンノニ』木下 半太 角川文庫 2016年2月25日初版 銀行強盗で得た大金を山分けし、

記事を読む

『殺人カルテ 臨床心理士・月島繭子』(大石圭)_書評という名の読書感想文

『殺人カルテ 臨床心理士・月島繭子』大石 圭 光文社文庫 2021年8月20日初版1刷

記事を読む

『あなたの燃える左手で』(朝比奈秋)_書評という名の読書感想文

『あなたの燃える左手で』朝比奈 秋 河出書房新社 2023年12月10日 4刷発行 この手の

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『ケモノの城』(誉田哲也)_書評という名の読書感想文

『ケモノの城』誉田 哲也 双葉文庫 2021年4月20日 第15刷発

『嗤う淑女 二人 』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『嗤う淑女 二人 』中山 七里 実業之日本社文庫 2024年7月20

『闇祓 Yami-Hara』(辻村深月)_書評という名の読書感想文

『闇祓 Yami-Hara』辻村 深月 角川文庫 2024年6月25

『地雷グリコ』(青崎有吾)_書評という名の読書感想文 

『地雷グリコ』青崎 有吾 角川書店 2024年6月20日 8版発行

『アルジャーノンに花束を/新版』(ダニエル・キイス)_書評という名の読書感想文

『アルジャーノンに花束を/新版』ダニエル・キイス 小尾芙佐訳 ハヤカ

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑