『キッドナッパーズ』(門井慶喜)_書評という名の読書感想文

『キッドナッパーズ』門井 慶喜 文春文庫 2019年1月10日第一刷

キッドナッパーズ (文春文庫)

表題作 「キッドナッパーズ」 は2003年、第42回オール讀物推理小説新人賞を受賞した幻のデビュー作だ。わざわざ “幻” とつけたのは、当時 『オール讀物』 誌上に掲載されたきり著書に収録される機会がなく、長年読むことが困難な作品だったからだ。

- 全然、まったく、そんなこととは知らずに買いました。直木賞受賞作 『銀河鉄道の父』 (これは正真正銘の傑作です。未読の方はぜひ! )を読んだきり、著者の作品はただの一冊も読んでいません。

歴史小説専門の人だとばかり思っていた私は、ほとんど歴史小説を読まない人だったからです。例外として 『銀河鉄道の父』 だけ読んだのですが、まさかデビュー作がミステリーなどとは思いもしませんでした。そして、(失礼ながら) 案外これが面白い。

未収録だった事情や今回書籍化された経緯については著者あとがきに譲るとして、まず内容で目を惹くのが、一瞬で読者の心を鷲掴みにする冒頭のインパクトだ。

主人公の湯本が玄関のドアを開けると、「大声を出すな」 という警告とともにサバイバル・ナイフが突きつけられる - が、なんと相手は野球帽を被った少年なのだ。いやまったく、ここからどんな形で話が転がっていくのか、一刻も早くページを繰りたくなるではないか。

- 物語は、まさにそんな感じで幕を開けます。(当然ですが) これだけでは何もわかりません。一体何が起ころうとしているのか? (読者は) 早くそれが知りたくてたまらなくなります。

さらに少年は湯本に 「阿佐浜優也を誘拐した。警察には知らせるな」 と自宅にいる母親に電話するように要求する。ここまでわずか4ページ。もうこの時点で先を追わずにいられる読者は皆無だろう。

ミステリの新人賞では、手堅くまとめられたものより、少々筆が走り過ぎていても強烈な惹きを備えた作品の方が歓迎されるものだ。その点で本作の序盤は、応募作として申し分ない。(注:太字は全て解説から抜粋しています)

- 見ず知らずの中学生の少年がいきなりやって来て、ドアを開けるなりナイフを見せ、湯本に対し、およそ思いもつかないことを言い出したのでした。

なんじゃこりゃ!?  そう思わせるところから、この話は始まっていきます。

※油断してはなりません。さすがに冒頭の奇抜さだけでは賞は獲れません。実は、優也には優也の言い知れぬ事情があります。彼は、ある事がもとで、とても深刻な性癖を抱えています。さらに優也は、湯本の “事情” をよく理解しています。

収録作品
1.キッドナッパーズ
2.目刺し
3.架空の風景
4.十字架ジュース
5.ごとんがたん
6.べつばら
7.おなじ本でも  - 以上、掌編を含む7作。

この本を読んでみてください係数  85/100

キッドナッパーズ (文春文庫)

◆門井 慶喜
1971年群馬県生まれ。
同志社大学文学部卒業。

作品 「東京帝大叡古教授」「家康、江戸を建てる」「銀河鉄道の父」「マジカル・ヒストリー・ツアー/ミステリと美術で読む現代」(評論) 他多数

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