『私は存在が空気』(中田永一)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/10 『私は存在が空気』(中田永一), 中田永一, 作家別(な行), 書評(わ行)

『私は存在が空気』中田 永一 祥伝社文庫 2018年12月20日初版

ある理由から存在感を消せるようになった高校生、鈴木伊織。彼女を認識できるのは、友人の春日部さやかだけ。けれど、さやかと話すうちに、伊織はバスケ部で人気の上条先輩のことが気になりだした。ついにはその “体質” を活かし、彼の後をつけ始め・・・・・・・(表題作) 普通じゃない超能力者たちの恋。それは切なくて、おかしくて、温かい。名手が紡ぐ、優しさ溢れる六つの恋物語。(祥伝社文庫)

[収録作品]
1.少年ジャンパー
2.私は存在が空気
3.恋する交差点
4.スモール・ライト・アドベンチャー
5.ファイアスターター湯川さん
6.サイキック人生

どこかの誰かが 「メディアワークス文庫から出ている、ラノベと一般文芸の中間的な作品のよう」 だと。”ラノベ” を読んだことがない私は、それが正しいかどうかはわかりません。

“ライトで後味がいい” というのはわかるのですが、やや柔らかすぎて歯応えがなく物足りないような - そんな感じがします。

何となく話のパターンがわかるのもいけません。まとめて読んでも、せいぜい二つか三つというところ。後は蛇足みたいにならないかが心配です。

だからというわけではないのですが、「少年ジャンパー」 はよかった。特に主人公の高校生・カケルと、彼が想いを寄せる上級生・瀬名先輩とが話す九州弁がリアルで、それだけでも楽しく読めました。飾らず、地を行く “青春” の王道のような作品です。

表題作 「私は存在が空気」 という作品は、ちょっと考えさせられました。読み手如何によっては、これはかなり辛い、辛すぎる話だともいえます。

高校生の伊織は、ある事情がもとで、自分の存在を限りなく “ないもの” にすることが可能になります。しようと思えば、完全に自分を消してしまうことさえできるようになります。

その 、そもそもの設定が辛すぎるのではないかと思うのです。

自分の存在を全て抹消し、余計な干渉を誰からも受けずにいたい。あらゆる感情を留め置いて、空気のような存在でありたいと願う心情が、わからぬわけではありません。思春期真っ只中の多くの少年少女らは、一度や二度は、きっとそんな思いを抱くはずです。

それは私にも、とてもよくわかります。但し、物語に登場する伊織のように、上手くいくとは限りません。大抵は、心の闇はそんなことでは拭えないのではないかと。それくらい彼女が抱える心の闇は深いものだと思うからです。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆中田 永一
1978年福岡県生まれ。本名は安達寛高。
豊橋技術科学大学工学部卒業。別名義で乙一としても執筆している。

作品 「百瀬、こっちを向いて。」「吉祥寺の朝日奈くん」「くちびるに歌を」「ダンデライオン」他

関連記事

『問いのない答え』(長嶋有)_書評という名の読書感想文

『問いのない答え』長嶋 有 文春文庫 2016年7月10日第一刷 何をしていましたか? ツイッター

記事を読む

『笑う山崎』(花村萬月)_書評という名の読書感想文

『笑う山崎』花村 萬月 祥伝社 1994年3月15日第一刷 「山崎は横田の手を握ったまま、無表情に

記事を読む

『にらみ』(長岡弘樹)_書評という名の読書感想文

『にらみ』長岡 弘樹 光文社文庫 2021年1月20日初版 窃盗の常習犯・保原尚道

記事を読む

『永い言い訳』(西川美和)_書評という名の読書感想文

『永い言い訳』西川 美和 文芸春秋 2015年2月25日第一刷 長年連れ添った妻・夏子を突然の

記事を読む

『サムのこと 猿に会う』(西加奈子)_書評という名の読書感想文

『サムのこと 猿に会う』西 加奈子 小学館文庫 2020年3月11日初版 そぼ降る

記事を読む

『追憶の夜想曲(ノクターン)』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『追憶の夜想曲(ノクターン)』中山 七里 講談社文庫 2016年3月15日第一刷

記事を読む

『嗤う淑女 二人 』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『嗤う淑女 二人 』中山 七里 実業之日本社文庫 2024年7月20日 初版第1刷発行 連続

記事を読む

『ヒポクラテスの憂鬱』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『ヒポクラテスの憂鬱』中山 七里 祥伝社文庫 2019年6月20日初版第1刷 全て

記事を読む

『悪い恋人』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『悪い恋人』井上 荒野 朝日文庫 2018年7月30日第一刷 恋人に 「わたしをさがさないで」

記事を読む

『七色の毒』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『七色の毒』中山 七里 角川文庫 2015年1月25日初版 岐阜県出身の作家で、ペンネームが

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『タラント』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『タラント』角田 光代 中公文庫 2024年8月25日 初版発行

『ひきなみ』(千早茜)_書評という名の読書感想文

『ひきなみ』千早 茜 角川文庫 2024年7月25日 初版発行

『滅私』(羽田圭介)_書評という名の読書感想文

『滅私』羽田 圭介 新潮文庫 2024年8月1日 発行 「楽っ

『あめりかむら』(石田千)_書評という名の読書感想文

『あめりかむら』石田 千 新潮文庫 2024年8月1日 発行

『インドラネット』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『インドラネット』桐野 夏生 角川文庫 2024年7月25日 初版発

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑