『プリズム』(貫井徳郎)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/06
『プリズム』(貫井徳郎), 作家別(な行), 書評(は行), 貫井徳郎
『プリズム』貫井 徳郎 創元社推理文庫 2003年1月24日 初版
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女性教師はなぜ死んだ? 多重解決ミステリの真髄!!
小学校の女性教師が自宅で死体となって発見された。ホワイトデーにチョコレートを送った同僚の男性教師が容疑者として浮かび上がり、事件は簡単に解決すると思われたが・・・・・・・。浮かんでは消える容疑者たち。いったい誰が犯人なのか? 死んだ女性教師は何者だったのか。推理が推理を呼ぶ、超絶技巧の挑戦状であり、ミステリの常識を超えた衝撃作! 解説/千街晶之 (実業之日本社文庫)
物語は、ある人物がする推理で幕を開けます。その人物は 「犯人」 を名指しして事件は解決したかに思わせるのですが、実は (名指しされた人物には) 犯人に至る確たる証拠がありません。犯行に及ぶであろう “状況” だけが、独り歩きしています。
次なる章で、その (「犯人」 と名指しされた) 人物は、別の人物を 「犯人」 と名指しします。根拠を述べ、証拠を並べ立てるのですが、それでも特定にまでは至りません。
次の章ではまた、新たな 「犯人」 が名指しされます。その繰り返し。それでも犯人は特定されません。
[目次]
Scene1 虚飾の仮面
Scene2 仮面の裏側
Scene3 裏側の感情
Scene4 感情の虚飾
小学校教師の山浦美津子が、自宅で死体となって発見された。傍らに転がっていたアンティーク時計によって撲殺されたらしいが、事故死の可能性もあるという。また、解剖によって彼女の体内からは睡眠薬が検出されたが、それは自分で服んだものではなく、何者かから送られたチョコレートに仕込まれていた。チョコレートを宅配便で送った差出人の名前は、山浦の同僚の男性教師。他殺だとすれば、物取りか変質者の仕業か、恋愛のもつれか、それとも怨恨が原因か?
本書には事件を捜査する刑事も登場するものの、作中では必要最小限の出番以外、さほど重要な役割を与えられていない。真相を探るのは四つの章の主人公たちであり、彼らはそれぞれの理由から犯人を知ろうとして、推理により自分なりの結論に辿りつく。
*
四人の視点人物、そしてその他の登場人物たちの目に、被害者の山浦美津子はどのように映っていたのか。ある人物にとっては好ましい教師、ある人物にとっては純真すぎて鬱陶しく感じられるほどの 「いい人」・・・・・・・といった具合に、見る人、見る角度によって美津子のイメージは変わってゆく。しかしそれは彼女の側だけの問題ではない。イメージがバラバラなのは、彼女を見る人間の主観を反映した結果でもあるのだから、それらのイメージ自体が観測者たちの立場や人間性を逆照射しているとも言えるのだ。(解説より)
注目すべきは、山浦美津子という女性が、誰もが目を引くほどの美人だったということです。彼女は美形で、教育熱心で、小学校教師としては申し分のない人物でした。
ところが、(それはある意味当然なことですが)、読むに従って、美津子が “それだけの” 女性ではないことがわかってきます。一癖も二癖もあり、その自分の癖には無自覚で、案外無防備なことがわかってきます。悪気がないのが何よりの罪ですが、かといって、彼女が命を落とすほどのことではありません。
※目を引く美貌、誘い込むようなまなざしとその姿態・・・・・・・男性も女性も同様に、彼女と関わる多くの人は、時々、それがひどく “迷惑” だったのかもしれません。女性にとって目立って綺麗なことは、時に大きな災いとなる - そんな美津子だからこその事件です。
この本を読んでみてください係数 80/100
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◆貫井 徳郎
1968年東京都生まれ。
早稲田大学商学部卒業。
作品 「慟哭」「乱反射」「後悔と真実の色」「愚行録」「微笑む人」「罪と祈り」他多数
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