『黛家の兄弟』(砂原浩太朗)_書評という名の読書感想文

『黛家の兄弟』砂原 浩太朗 講談社文庫 2023年12月15日 第1刷発行

謀略、犠牲、裏切り、乱刃、愛憎。高瀬庄左衛門御留書 の感動を超える武家物時代小説

- 未熟は悪でござる」 己の弱さを痛感した青年が過酷な運命を超えて見た景色とは。

神山藩の筆頭家老を代々つとめる黛家。三男の新三郎は道場仲間の由利圭蔵と剣術の腕を磨いていた。転機が訪れ、大目付を務める黒沢家に婿入りした新三郎は裁きを学ぶ。黛家の将来を翻弄する抜き差しならぬ事態が発生。藩内の権力争いに巻き込まれていく三兄弟が選んだそれぞれの道は。山本周五郎賞受賞作。(講談社文庫)

物語は大きく第一部と第二部で構成されています。運命を見定めるにはそれ相応の時間が必要で、時を経たからこそ気付く真実があります。兄弟はそれぞれに、(生死を賭けて) よく堪えたのでした。

本書は 『高瀬庄左衛門御留書』 と同じ架空の藩・神山藩が舞台。主人公は藩の筆頭家老を務める黛家の三男、十七歳の新三郎だ。筆頭家老を継ぐことが決まっている長男の栄之丞はクールで真面目。次男の壮十郎は剣の腕の立つ、磊落な遊び人。母は早くに亡くしたものの、仲のいい兄たちと尊敬できる父のもと、新三郎は三男坊の気楽さから道場仲間との交流や淡い恋など青春の日々を送っていた。

そんなある日、新三郎に縁談が来る。大目付の黒沢家へ婿入りすることが決まったのだ。大目付といえば司法のトップだ。舅や先輩たちについて新三郎は裁きの見習いを始めることになる。人を裁いて時には死を与えるというお役目に重圧を感じるものの、すべては順風満帆 - のはずだった。

ところがある日、黛家の将来を揺るがす大事件が起きる。その影には筆頭家老の地位を狙う漆原内記の策略があった - 。

この大事件が何なのかを書かないことには本書のキモを伝えるのは難しいのだが、そこはやはり本編でお読みいただきたいのでここではボカしておく。一家の誰もが血を吐くような慟哭の中に突き落とされ、筆頭家老の地位をも追われるのだ。その中で、兄弟の固い絆が読者にとっても心の支えとなる。(解説より)

ところが。- さあこの先どうなるかと思いきや、

第二部はいきなり十三年後に飛んだから驚いた。しかも、である。いや、これは言うわけにはいかない。その展開は読者の予想を大きく裏切るものだとだけ言っておこう。(同解説)

※時代小説が格別好きなわけではありません。ただ、たまに、無性に読みたくなることがあります。年を取ったからでしょうか。よくはわからないのですが、勧善懲悪がはっきりし、心置きなく泣いたり笑ったり、感動したり。若い頃には見向きもしなかった、そんな本が読みたくなります。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆砂原 浩太朗
1969年兵庫県神戸市生まれ。
早稲田大学第一文学部卒業。

作品 「いのちがけ」「高瀬庄左衛門御留書」「いのちがけ 加賀百万石の礎」「霜月記」「藩邸差配役日日控」 など

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