『ケモノの城』(誉田哲也)_書評という名の読書感想文

『ケモノの城』誉田 哲也 双葉文庫 2021年4月20日 第15刷発行

綺麗なものにだけ目を向けて生きていくことはできない。現実はそこまで甘くない。ならば、その実在する恐怖に、おぞましい現実に目を向けるしかない。ある種の覚悟を、強いる作品だと思う。書く者にも、読む者にも。(著者から)

警察は、自ら身柄保護を求めてきた少女を保護した。少女には明らかに暴行を受けたあとがあった。その後、少女と同じマンションの部屋で暮らしていた女性を傷害容疑で逮捕するが、その女性にも、暴行を受けていたと思われる傷があった。やがて、少女が口を開く。お父さんは、殺されました - 。刊行と同時に大反響を呼んだ問題作。読者の心をいやおうなく揺さぶる衝撃のミステリー。(双葉文庫)

読み始めてすぐに気が付きました。これは、私がたまたま以前ブログに上げたノンフィクション 『消された一家/北九州・連続監禁殺人事件』 (豊田正義著 新潮文庫 2023年4月15日27刷) がモデルとなった “小説“ ではないかと。単なる偶然ではありますが、これは驚きました。そして、その 「再現性」 にえらく感心させられました。断っておきますが、気持ちいい話ではありません。終始胸につかえて、ムカムカします。

物語は、ひとりの少女から身柄保護を求める110番通報があったことで始まる。その少女は顔や腕に複数の痣があり、サンダルから出ている足の指には爪が一本もなかった。そればかりか、右足の中指と薬指、左足の親指と中指は火傷を負っており、治療が不完全だったのか半ば癒着してもいた。明らかに虐待を、しかも長期間に渡って受けていたことがわかる状態だった。

さてここから世にもおぞましい監禁事件の顛末が語られていくのだが、実はこの作品にはモデルとなった現実の事件がある。2002年、北九州市小倉北区で発覚した、犯罪史上まれに見る凶悪監禁殺人事件だ。だが、この事件は不思議なことに、残虐性においても非道性においても歴史に残るようなものであったにもかかわらず、報道量は意外に少なく知名度はさして高くない。

なぜか。事件の発覚当初こそセンセーショナルに報道されていたのだが、その後、事件の内容が明からになるにつれ報道各社が自主規制するようになったというのだ。その理由は、あまりにも残酷な事件内容だったため、表現方法がきわめて難しかったのと、被害者と加害者の関係および殺害方法、死体の処理法も常軌を逸しており、遺族関係者がメディアに被害を訴えるなどして露出することを控えたためとも言われている。

さほどに衝撃的で、猟奇的な事件だったのだ。

ж

保護された少女の供述に従って、監禁されていたマンションの一室を捜索すると、そこにはやはり同じように虐待されていたとおぼしき女性がいた。室内の状況も異常で、吐き気を催すような異様な臭気に加え、部屋という部屋のドア、トイレや浴室の扉にいたるまで外から南京錠がつけられ、窓という窓には光が洩れないように暗幕が張られていたのである。

やがてこのふたりの女性の口から、およそ信じられないような地獄が明らかになる。

すべての始まりはひとりの人物 - 梅木ヨシオと名乗る男の仕業であったのだ。ヨシオは容易に人の心に入り込み、複数の人間を思うさま操っていたのである。しかしどうしてそんなことができたのか。被害者たちは、なぜ唯々諾々とヨシオの指示に言うがまま従っていたのか。監禁されていた人数は何人だったのか。それはどういう関係の人たちであったのか。そもそもヨシオとは何者なのか。数々の謎とともに、このあと物語は予想もつかない展開となっていく。(解説より)

マンションの一室では何人もが殺害され、その度ごとに死体は切断され、形を無くすまで煮たり切り刻まれたりし、一切証拠を残さぬよう処分されます。するのは監禁された者たちで、ヨシオが手を汚すことはありません。彼の思い通りにいかないときは、好き勝手に “犯人“ を名指しし、決まって虐待を加えます。

この本を読んでみてください係数  85/100

◆誉田 哲也
1969年東京都生まれ。
学習院大学経済学部経営学科卒業。

作品 「妖の華」「アクセス」「ストロベリーナイト」「ハング」「あなたが愛した記憶」「背中の蜘蛛」「主よ、永遠の休息を」「レイジ」「ジウ」シリ-ズ「もう、聞こえない」他多数

(参考)

関連記事

『消えない月』(畑野智美)_書評という名の読書感想文

『消えない月』畑野 智美 集英社文庫 2023年11月10日 14版発行 追う男、追われる女

記事を読む

『カエルの楽園 2020』(百田尚樹)_書評という名の読書感想文

『カエルの楽園 2020』百田 尚樹 新潮文庫 2020年6月10日発行 コロナ禍

記事を読む

『かわいい結婚』(山内マリコ)_書評という名の読書感想文

『かわいい結婚』山内 マリコ 講談社文庫 2017年6月15日第一刷 結婚して専業主婦となった29

記事を読む

『青春とは、』(姫野カオルコ)_書評という名の読書感想文

『青春とは、』姫野 カオルコ 文春文庫 2023年5月10日第1刷 目の前に蘇る、

記事を読む

『背中の蜘蛛』(誉田哲也)_第162回 直木賞候補作

『背中の蜘蛛』誉田 哲也 双葉社 2019年10月20日第1刷 池袋署刑事課の課長

記事を読む

『今日のハチミツ、あしたの私』(寺地はるな)_書評という名の読書感想文

『今日のハチミツ、あしたの私』寺地 はるな ハルキ文庫 2024年7月18日 第23刷発行

記事を読む

『格闘する者に◯(まる)』三浦しをん_書評という名の読書感想文

『格闘する者に◯(まる)』 三浦 しをん 新潮文庫 2005年3月1日発行 この人の本が店頭に並

記事を読む

『禁断の中国史』(百田尚樹)_書評という名の読書感想文

『禁断の中国史』百田 尚樹 幻冬舎文庫 2025年11月10日初版発行 ベストセラー作家百田

記事を読む

『回遊人』(吉村萬壱)_書評という名の読書感想文

『回遊人』吉村 萬壱 徳間書店 2017年9月30日初刷 妻か、妻の友人か。過去へ跳び、人生を選べ

記事を読む

『黒冷水』(羽田圭介)_書評という名の読書感想文

『黒冷水』羽田 圭介 河出文庫 2005年11月20日初版 兄の部屋を偏執的にアサる弟と、罠(

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『羆嵐』(吉村昭)_書評という名の読書感想文

『羆嵐』吉村 昭 新潮文庫 2026年12月20日 62刷発行

『妊娠カレンダー』(小川洋子)_書評という名の読書感想文

『妊娠カレンダー』小川 洋子 文春文庫 2020年12月20日 第2

『カフェーの帰り道』(嶋津輝)_書評という名の読書感想文

『カフェーの帰り道』嶋津 輝 東京創元社 2026年1月23日 4版

『きっと君は泣く』(山本文緒)_書評という名の読書感想文

『きっと君は泣く』山本 文緒 角川文庫 2026年1月25日 改版初

『彼女たちが隠したかったこと』(一木けい)_書評という名の読書感想文

『彼女たちが隠したかったこと』一木 けい 角川文庫 2026年1月2

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑