『ヒポクラテスの試練』(中山七里)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/06
『ヒポクラテスの試練』(中山七里), 中山七里, 作家別(な行), 書評(は行)
『ヒポクラテスの試練』中山 七里 祥伝社文庫 2021年12月20日初版第1刷

自覚症状もなく、MRIでも検出できない・・・・・・・ 法医学の権威・光崎教授をうろたえさせた未知なる感染症に挑む。
死体は真実を語る - 法医学ミステリー第3弾
死因はMRIにも映らない、急激に悪化した肝臓がん? - 浦和医大法医学教室の光崎藤次郎教授のもとに、急死した前都議会議員の司法解剖の依頼がきた。埼玉県警の古手川が捜査すると、毒殺の疑いが浮上。だが光崎は、別の死因をつきとめる。法医学の権威の動揺ぶりに、得体の知れない恐怖を感じた助教の栂野真琴たち。さらに、都議会関係者から第二の犠牲者が! (祥伝社文庫)
権藤要一が亡くなったのは急激に悪化した肝臓がんが原因でした。死因は他には考えられず、それですべてが済むはずでした。
話の発端は早すぎる病死に光崎が興味を抱いたことでした。
肝臓がんの約九割は肝細胞がんであり、一般的に肝臓がんと言えば肝細胞がんを指します。肝細胞がんは他臓器のがんと異なり、慢性の肝臓病を基礎疾患とすることが多く、長期間に亘って肝細胞の破壊と再生を繰り返すことが発がん原因とされています。従って手遅れになるほど肝臓がんが進行しているのなら、当然その過程で腹痛なり血圧低下なりの症状が出るはずで、無症状とされる5センチ以内のがんであっても腹部超音波・X線CT・MRIなどの検査で発見されるはずのものでした。
「では始める。遺体は六十八歳男性。肝細胞がんのため、病院にて死亡」
「体表面に外傷および鬱血は認められない。死斑が背中に集中しているのは、病院での仰臥姿勢が続いたせいだろう。それでは執刀する。メス」
真琴からメスを受け取り、死体の胸にY字を描く。メスの走った跡には血の玉がぽつりと浮くだけで、本当に線を描いているように見える。切断面から両側を開くと、早くも腐敗の始まった体内からガスが洩れる。肋骨を外すと、肺が露出した。
肝臓表面が顆粒状だ。これは肝臓全体が偽小葉で置換された状態だ。たとえばアルコール性肝硬変の場合、肝臓はいくぶん肥大し小型の偽小葉が比較的狭い線維性隔壁に取り込まれているが、この死体はまだ肝臓の肥大に至っていない。原因がアルコール性由来でないことの一つの証だ。ただし顆粒状の部分は広範囲に亘っており、ここが病巣であることを窺わせる。
「顆粒はやや大きい。グリソン鞘や間質に細胞浸潤が認められる。小嚢胞が下部に集中」
光崎の手が肝臓の下部に滑り落ちる。そしてゆっくりと持ち上げた時、わずかに目を見開いた。今までついぞ見せたことのない、訝しげな目つきだった。
「ピンセット」
光崎の声の調子が変わった。光崎はピンセットを肝臓の下に潜り込ませ、慎重にその異物を挟み上げた。
何だ、これは。
真琴は息をするのも忘れて異物に見入る。対面のキャシーも同様で、彼女は目を大きく見開いている。ピンセットに挟まれたものは多包虫だった。(本文P51 ~ 54より抜粋)
体内に侵入し増殖する多包虫 - その正体こそが、今回の 「犯人」 です。「犯人」 は一人の人間に止まらず、既に多くの人体に侵入しているやもしれません。その脅威と不安が、あの光崎をしていつになく慌てさせるのでした。
- と、ここら辺りにしておきましょう。『ヒポクラテスの誓い』 『ヒポクラテスの憂鬱』 ときて、私は今回の 『ヒポクラテスの試練』 が一番面白く読めました。事は急を要し、事態は海外に及びます。スケールの点からいってもダントツではないでしょうか。続きが知りたくて、寝るのが惜しくなります。
この本を読んでみてください係数 85/100

◆中山 七里
1961年岐阜県生まれ。
花園大学文学部国文科卒業。
作品 「切り裂きジャックの告白」「七色の毒」「さよならドビュッシー」「闘う君の唄を」「嗤う淑女」「魔女は甦る」「連続殺人鬼カエル男」「護られなかった者たちへ」他多数
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