『呪い人形』(望月諒子)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/06 『呪い人形』(望月諒子), 作家別(ま行), 書評(な行), 望月諒子

『呪い人形』望月 諒子 集英社文庫 2022年12月25日第1刷

集英社文庫45周年 名作復活
社会の闇をあぶり出す傑作ミステリー 待望の新版!

悪名高い宗教家が入院中に死亡した。多額の布施を強要されて家族を失った老婆が 「自分が呪い殺した」 と名乗り出る。しかし疑いの目は研修医の工藤孝明に。濡れ衣を晴らし個人病院の勤務医になった工藤だが、またも彼の目の前で患者が死亡する! 取材を進めるフリーライターの木部美智子は、「呪われて」 死んだ者がほかにもいることを知るが - 。人間が秘める暗部に鋭く迫る社会派ミステリー。(集英社文庫)

その青年医師は、ある日病状が急変した患者に対し、只々、そのときできる限りを尽くして対処しただけのことでした。目の前の患者の命を救おうと - そのためだけで、他意は一切ありません。なのに、なぜか彼は疑念の目で見られることになります。

物語の主人公は、中根大善の事件の責任を押しつけられたかたちで大学病院を追われ、茨城県南西部の町の小さな個人病院に勤務している若き医師・工藤孝明。だが、この藤原病院でも、若い入院患者が工藤の目の前で急死する事例が発生。死亡したのは、知的障害のある十五歳の娘をレイプされたと激怒する母親から包丁で切りつけられ、軽傷を負って入院していた青年だった。事件の前日、この母親は、呪い殺しを依頼するため、多額の現金を用意していたらしい。工藤はふたたび嘱託殺人を疑われることに・・・・・・・。

探偵役は、新聞記者出身のフリージャーナリスト、われらが木部美智子。硬派の週刊誌 〈週刊フロンティア〉 の看板ライターとして活躍する。当年とって四十歳の独身女性だ。(後略)

事件に入れ込むと暴走しがちなキャラクターだが、〈週刊フロンティア〉 編集長の真鍋がしっかり手綱を握り、客観的な立場から木部の熱に水を差す役割を果たしている。もっとも、木部はルポライターなので、事件がないところには現れない。加害者と被害者が先に登場し、なんらかの事件が発生したところで木部が取材をはじめる (もしくは別件で取材しているうちに関わりを持つ) というパターンをとることが多い。

木部美智子の生真面目すぎるくらい生真面目な性格とストイックな生き方、社会の暗部をまっすぐ見つめる曇りのないまなざしがこのシリーズの最大の魅力だろう。

このシリーズのもうひとつの武器は、圧倒的なストーリーテリング。望月諒子の語りに摑まれると、絶叫マシンに乗ったかのようにぶんぶん振り回され、感情の激しい浮き沈みを経験することになる。(解説より)

私は、この手の話は数多読んでいるという自負があります。一筋縄ではいかない難解な事件を地道な捜査と緻密な推理でもって見事解決してみせる刑事や探偵、あるいは新聞や雑誌の記者やライターなど、物語に登場する希少なキャラクターを数多く知っています。

中で、今最も “信用できる” 人物が、木部美智子その人です。取材に関し、彼女はこうと決めたら、最後の最後まで手を抜きません。疑問に感じたことは、どんなに小さなことも、自分が納得するまで追究し、妥協することがありません。

奇を衒わず、思い立てばすぐに実行し、言い訳は一切しません。その潔さ、その突出して鋭敏な嗅覚は、文句なく他を圧しています。

この本を読んでみてください係数  85/100

◆望月 諒子
1959年愛媛県生まれ。兵庫県神戸市在住。
銀行勤務を経て、学習塾を経営。

作品 「神の手」「腐葉土」「大絵画展」「田崎教授の死を巡る桜子准教授の考察」「哄う北斎」「蟻の棲み家」「殺人者」他

関連記事

『玉瀬家の出戻り姉妹』(まさきとしか)_書評という名の読書感想文

『玉瀬家の出戻り姉妹』まさき としか 幻冬舎文庫 2023年9月10日初版発行 まさ

記事を読む

『夏の庭 The Friends 』(湯本香樹実)_書評という名の読書感想文

『夏の庭 The Friends 』湯本 香樹実 新潮文庫 1994年2月25日発行 町外れに暮ら

記事を読む

『ケーキの切れない非行少年たち』(宮口幸治)_書評という名の読書感想文

『ケーキの切れない非行少年たち』宮口 幸治 新潮新書 2020年9月5日27刷 児

記事を読む

『みんな邪魔』(真梨幸子)_書評という名の読書感想文

『みんな邪魔』真梨 幸子 幻冬舎文庫 2011年12月10日初版 少女漫画『青い瞳のジャンヌ』

記事を読む

『成瀬は天下を取りにいく』(宮島未奈)_書評という名の読書感想文

『成瀬は天下を取りにいく』宮島 未奈 新潮社 2023年3月15日発行 「島崎、わ

記事を読む

『夏の陰』(岩井圭也)_書評という名の読書感想文

『夏の陰』岩井 圭也 角川文庫 2022年4月25日初版 出会ってはならなかった二

記事を読む

『泥濘』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『泥濘』黒川 博行 文藝春秋 2018年6月30日第一刷 「待たんかい。わしが躾をするのは、極道と

記事を読む

『屑の結晶』(まさきとしか)_書評という名の読書感想文

『屑の結晶』まさき としか 光文社文庫 2022年10月20日初版第1刷発行 最後

記事を読む

『蟻の棲み家』(望月諒子)_書評という名の読書感想文

『蟻の棲み家』望月 諒子 新潮文庫 2021年11月1日発行 誰にも愛されない女が

記事を読む

『劇場』(又吉直樹)_書評という名の読書感想文

『劇場』又吉 直樹 新潮文庫 2019年9月1日発行 高校卒業後、大阪から上京し劇

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『あいにくあんたのためじゃない』(柚木麻子)_書評という名の読書感想文

『あいにくあんたのためじゃない』柚木 麻子 新潮社 2024年3月2

『執着者』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文

『執着者』櫛木 理宇 創元推理文庫 2024年1月12日 初版 

『オーブランの少女』(深緑野分)_書評という名の読書感想文

『オーブランの少女』深緑 野分 創元推理文庫 2019年6月21日

『揺籠のアディポクル』(市川憂人)_書評という名の読書感想文

『揺籠のアディポクル』市川 憂人 講談社文庫 2024年3月15日

『海神 (わだつみ)』(染井為人)_書評という名の読書感想文

『海神 (わだつみ)』染井 為人 光文社文庫 2024年2月20日

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑