『呪い人形』(望月諒子)_書評という名の読書感想文

『呪い人形』望月 諒子 集英社文庫 2022年12月25日第1刷

集英社文庫45周年 名作復活
社会の闇をあぶり出す傑作ミステリー 待望の新版!

悪名高い宗教家が入院中に死亡した。多額の布施を強要されて家族を失った老婆が 「自分が呪い殺した」 と名乗り出る。しかし疑いの目は研修医の工藤孝明に。濡れ衣を晴らし個人病院の勤務医になった工藤だが、またも彼の目の前で患者が死亡する! 取材を進めるフリーライターの木部美智子は、「呪われて」 死んだ者がほかにもいることを知るが - 。人間が秘める暗部に鋭く迫る社会派ミステリー。(集英社文庫)

その青年医師は、ある日病状が急変した患者に対し、只々、そのときできる限りを尽くして対処しただけのことでした。目の前の患者の命を救おうと - そのためだけで、他意は一切ありません。なのに、なぜか彼は疑念の目で見られることになります。

物語の主人公は、中根大善の事件の責任を押しつけられたかたちで大学病院を追われ、茨城県南西部の町の小さな個人病院に勤務している若き医師・工藤孝明。だが、この藤原病院でも、若い入院患者が工藤の目の前で急死する事例が発生。死亡したのは、知的障害のある十五歳の娘をレイプされたと激怒する母親から包丁で切りつけられ、軽傷を負って入院していた青年だった。事件の前日、この母親は、呪い殺しを依頼するため、多額の現金を用意していたらしい。工藤はふたたび嘱託殺人を疑われることに・・・・・・・。

探偵役は、新聞記者出身のフリージャーナリスト、われらが木部美智子。硬派の週刊誌 〈週刊フロンティア〉 の看板ライターとして活躍する。当年とって四十歳の独身女性だ。(後略)

事件に入れ込むと暴走しがちなキャラクターだが、〈週刊フロンティア〉 編集長の真鍋がしっかり手綱を握り、客観的な立場から木部の熱に水を差す役割を果たしている。もっとも、木部はルポライターなので、事件がないところには現れない。加害者と被害者が先に登場し、なんらかの事件が発生したところで木部が取材をはじめる (もしくは別件で取材しているうちに関わりを持つ) というパターンをとることが多い。

木部美智子の生真面目すぎるくらい生真面目な性格とストイックな生き方、社会の暗部をまっすぐ見つめる曇りのないまなざしがこのシリーズの最大の魅力だろう。

このシリーズのもうひとつの武器は、圧倒的なストーリーテリング。望月諒子の語りに摑まれると、絶叫マシンに乗ったかのようにぶんぶん振り回され、感情の激しい浮き沈みを経験することになる。(解説より)

私は、この手の話は数多読んでいるという自負があります。一筋縄ではいかない難解な事件を地道な捜査と緻密な推理でもって見事解決してみせる刑事や探偵、あるいは新聞や雑誌の記者やライターなど、物語に登場する希少なキャラクターを数多く知っています。

中で、今最も “信用できる” 人物が、木部美智子その人です。取材に関し、彼女はこうと決めたら、最後の最後まで手を抜きません。疑問に感じたことは、どんなに小さなことも、自分が納得するまで追究し、妥協することがありません。

奇を衒わず、思い立てばすぐに実行し、言い訳は一切しません。その潔さ、その突出して鋭敏な嗅覚は、文句なく他を圧しています。

この本を読んでみてください係数  85/100

◆望月 諒子
1959年愛媛県生まれ。兵庫県神戸市在住。
銀行勤務を経て、学習塾を経営。

作品 「神の手」「腐葉土」「大絵画展」「田崎教授の死を巡る桜子准教授の考察」「哄う北斎」「蟻の棲み家」「殺人者」他

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