『レモンと殺人鬼』(くわがきあゆ)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
最終更新日:2024/01/05
『レモンと殺人鬼』(くわがきあゆ), くわがきあゆ, 作家別(か行), 書評(ら行)
『レモンと殺人鬼』くわがき あゆ 宝島社文庫 2023年6月8日第4刷発行
2023年 第21回 『このミステリーがすごい! 』 大賞・文庫グランプリ受賞作
十年前、洋食屋を営んでいた父親が通り魔に殺されて以来、母親も失踪、それぞれ別の親戚に引き取られ、不遇をかこつ日々を送っていた小林姉妹。しかし、妹の妃奈が遺体で発見されたことから、運命の輪は再び回りだす。被害者であるはずの妃奈に、生前保険金殺人を行っていたのではないかという疑惑がかけられるなか、妹の潔白を信じる姉の美桜は、その疑惑を晴らすべく行動を開始する。(宝島社文庫)
(以下は解説より抜粋しています)
主人公は地方の大学職員、小林美桜。保険外交員だった妹の妃奈が山中で刺殺体となって発見されたところ、ほどなく妃奈が過去に保険金目当ての殺人を犯していたのではないかとの報道があり、美桜は被害者遺族から一転、容疑者の姉となってしまう。妹の無実を証明したい美桜は、協力を申し出てきたジャーナリスト志望の学生、渚丈太郎とともに調べを進めていくことに。
じつは美桜が殺人事件で身内を喪うのははじめてではない。十年前、洋食店を営んでいた父親が殺されているのだ。犯人は当時十代だった少年、佐神翔で、最近出所したはずだ。今回の事件にも彼がなにかしら関係しているのか - ? 意外な事実が次々明かされ、二転三転四転五転の力業で読者をねじ伏せてくる、くわがきあゆの 『レモンと殺人鬼』。第21回 『このミステリーがすごい! 』 大賞の文庫グランプリ受賞作品である。書籍化にあたり、応募時タイトルの 『レモンと手』 から改題した。
*
著者のくわがきあゆは、1987年生まれ。京都府京都市出身、京都市在住だ。京都府立大学では文学部文学科で国文学中国文学を専攻、国文学 (大岡政談) と中国文学 (龍図公案) の比較研究をしていたという。ただし、本人いわく 「現在中国語で憶えているのは 『你好 (ニーハオ)』 くらい」 とのこと。現在は高校で国語教師をしている。本作については、オチ (犯人の正体) を最初に思いつき、その日の晩のうちに頭の中で大筋が出来上がったという。「あらゆる 『あかん人 (=ヤバイ人)』 を登場させてみようと思いました」 とは本人の弁。個人的には渚が気に入っているが、「そう言うと危くない人だと思われそうなので誰にも言っていませんでした」、とも (すみません、誰にも言っていないというのにここでバラしました)。
二転三転四転・・・・・・・くらいまでならよかったのに。読者の虚を衝くのがミステリーの醍醐味とはいえ、いくらなんでも 「五転」 はないだろうと。努力は大いに買いますが、「五転目」 に至り、私は少なからずショックを受けました。終盤も終盤、ここに至って - それはないだろうと。
※文庫グランプリを本作と同時受賞したもう一つの作品が、美原さつきの 『禁断領域 イックンジュッキの棲む森』 です。趣向はまるで違うのですが、こちらもぜひ一読を!
この本を読んでみてください係数 80/100
◆くわがき あゆ
1987年京都府生まれ。
京都府立大学卒業。
作品 第8回 「暮らしの小説大賞」 を受賞し、『焼けた釘』 (産業編集センター) で2021年にデビュー。2022年、本作で第21回 『このミステリーがすごい! 』 大賞・文庫グランプリを受賞。
関連記事
-
『路傍』(東山彰良)_書評という名の読書感想文
『路傍』東山 彰良 集英社文庫 2015年5月25日第一刷 俺、28歳。金もなけりゃ、女もいな
-
『茗荷谷の猫』(木内昇)_書評という名の読書感想文
『茗荷谷の猫』木内 昇 文春文庫 2023年7月25 第7刷 もう少し手を伸ばせばあの夢にと
-
『日没』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文
『日没』桐野 夏生 岩波書店 2020年9月29日第1刷 ポリコレ、ネット中傷、出
-
『自覚/隠蔽捜査5.5』(今野敏)_書評という名の読書感想文
『自覚/隠蔽捜査5.5』今野 敏 新潮文庫 2017年5月1日発行 以前ほどではないにせよ、時々
-
『なめらかで熱くて甘苦しくて』(川上弘美)_書評という名の読書感想文
『なめらかで熱くて甘苦しくて』川上 弘美 新潮文庫 2015年8月1日発行 少女の想像の中の奇
-
『ロスト・ケア』(葉真中顕)_書評という名の読書感想文
『ロスト・ケア』葉真中 顕 光文社文庫 2015年4月20日第6刷 戦後犯罪史に残
-
『六番目の小夜子』(恩田陸)_書評という名の読書感想文
『六番目の小夜子』恩田 陸 新潮文庫 2001年2月1日発行 津村沙世子 - とある地方の高校にや
-
『もっと悪い妻』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文
『もっと悪い妻』桐野 夏生 文藝春秋 2023年6月30日第1刷発行 「悪い妻」
-
『ルビンの壺が割れた』(宿野かほる)_書評という名の読書感想文
『ルビンの壺が割れた』宿野 かほる 新潮社 2017年8月20日発行 この小説は、あなたの想像を超
-
『福袋』(角田光代)_書評という名の読書感想文
『福袋』角田 光代 河出文庫 2010年12月20日初版 私たちはだれも、中身のわ