『ハコブネ』(村田沙耶香)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/12
『ハコブネ』(村田沙耶香), 作家別(ま行), 書評(は行), 村田沙耶香
『ハコブネ』村田 沙耶香 集英社文庫 2016年11月25日第一刷
セックスが辛く、もしかしたら自分は男なのではと思い、男装をするフリーターの里帆。そんな曖昧な里帆を責める椿は、暗闇でも日焼け止めを欠かさず肉体を丁寧にケアする。二人の感覚すら共有できない知佳子は、生身の人間としての肉体的感覚が持てないでいた。十九歳の里帆と二人の“アラサー”女性。三人が乗る「ハコブネ」は、セクシャリティーという海を漂流する。(「BOOK」データベースより)
一度だけ、昔『ギンイロノウタ』という本を買ったことがあります。しかし、(二度、三度と試してはみたのですが)結局は読めないでいます。面白くないと言ってしまえばそれまでですが、なら何がつまらないのか、それについては深く考えないでいました。
何とはなしに、(もの凄く大雑把ですが)自分には合わないのだろうと。ですから、「村田紗耶香」という名前は再三見かけるものの、買えばまた中途で投げ出すことになるんだろうと、以後一冊も読まずにいました。
どうせなら、芥川賞を受賞した『コンビニ人間』を読めばよかった。それでダメなら諦めも付きますが、先に一冊、別の本を読んでおこうとしたのが間違いでした。しかもその本が、(おそらくは運悪く)『ハコブネ』だったのがいけません。
残念ながら、私の身辺には「もしかして、自分は男なのではないのだろうか」と思い悩む「里帆」のような女性や、
太陽を「ソル」、地球を「アース」と呼び、生身の男性にではなく、「アースとセックスをする」ことで性的興奮を覚える「知佳子」みたいな女性は、唯の一人もいないからです。
身近に「手本」となるような人物がいない上に、女性特有の生理や性向についての本とあらば、男の私が読もうとしたのが間違いで、頭では理解できても、それでわかったということにはならないのでしょう。そして、
おそらくは、著者が言いたのは、(私が思うような)そんな通り一遍のことではありません。私たちが生きて今いる状況についての言い知れぬ「違和感」についてを伝えたいのだと思います。読む前にぼんやり抱いていたイメージと違い、これが中々に「哲学」なわけです。
体現者は知佳子。彼女は、現にある様々な決まりごとについて、皆で壮大な「おままごと」をしているみたいに感じています。「おままごと」の中でいつのまにか生まれる決まりごとについて、(全てはその場の「幻想」でしかないのに)それでもそれを守るから、「幻想」を共有するからこそ、皆でする「おままごと」は楽しいのだと考えます。
しかし、永遠に続く「おままごと」の中にいる皆とは違い、否応なく別の時間の流れへと引き戻されていく自分は、(自分にだけは)門限があるみたいで、さみしくなります。いつまでも「おままごと」の中にいたいのに、知佳子には、それがどうしてもできないのです。
誰もが共有している「幻想世界」- それが知佳子にとっての現実世界で、それはことのほか生き難さに溢れ、偶然のように行き合う三人の女性をして、その「やるせなさ」をデフォルメして見せてくれているのだと。そんなふうに思えたりします。
知佳子は、好んで「水」を飲みます。「水」は、何より知佳子に「生きて存在していることの実感」をもたらします。
水を口に流し込むと、それが自分の肉体に染み込んでくるのがわかった。同時に額から汗が零れ落ちる。自分の中を水が循環しているのがわかる。この水がまた星に染み込み、空にあがり、星の中を廻っていく。
そう思うと、隣を流れる小川の水も、自分の身体の中を流れる水と繋がっているのだと感じる。どの水もいずれ自分に入ってくるのだと思うと、それが全部自分の体液でもあるような気もする。星の欠片である知佳子にとっては、全ての水が星の体液なのだった。
知佳子は、歩きながら今自分の中をくぐりぬけている水の感触をぼんやりと味わっています。肉体である以前に物質である彼女の中に、水は滔々と染み込んでいきます。
どうでしょう。皆さんは、この感覚についていけるのでしょうか。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆村田 沙耶香
1979年千葉県印西市生まれ。
玉川大学文学部芸術学科芸術文化コース卒業。
作品 「授乳」「ギンイロノウタ」「しろいろの街の、その骨の体温の」「殺人出産」「コンビニ人間」「消滅世界」など
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