『漂流物・武蔵丸』(車谷長吉)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
『漂流物・武蔵丸』(車谷長吉), 作家別(か行), 書評(は行), 車谷長吉
『漂流物・武蔵丸』車谷 長吉 中公文庫 2021年8月25日 初版発行
業深き人間ドラマ 私小説の極北 『赤目四十八瀧心中未遂』 の著者の代表作品集

「あのな、ええことおせちゃる。」- 鬼気迫る母親の一人語り 「抜髪」、平林たい子賞、川端康成賞受賞の表題作二篇ほか、私小説の真髄を示す佳篇を精選。さらに講演 「私の小説論」 と随筆一篇を併録した直木賞作家の文庫オリジナル選集。《巻末エッセイ》 高橋順子 《解説》 井口時男 (中公文庫)
(目次)
木枯し
抜髪
漂流物
変
武蔵丸
狂
「鹽壺の匙」 補遺
直木賞受賞修羅日乗
私の小説論
巻末エッセイ
けったいな連れ合い 高橋順子
ж
つい最近ですが、誰かがどこかに (おそらく朝刊) この本のことを書いていたのを読みました。「漂流物」 についてだったと思います。タイトルと出版元だけメモしてジュンク堂へ行くと、店には在庫がなくて、取り寄せに二週間ほどかかると言われました。
十日ほどで連絡があり、すぐに受け取りに。家に帰ってすぐに読み始め、つい先ほど読み終えました。諸々あるにはあるのですが、おそらくこの先忘れることはないであろう二つの作品 (というか特に印象に残った文章) を紹介したいと思います。
たぶん、「丸々一冊読んで、そんなことかよ」 と。そう思われるのは百も承知で、それでも書こうと思うのは、二つの文章があまりに強烈で、それを 「書け書け」 と (誰かに) 背中を押されているようで。いたく感動したとか感銘を受けたわけではありません。ただ言えるのは、滅多なことではお目にかかれない、ということです。
一つは 「狂」 に登場する立花得二先生 (著者が飾磨高等学校時代に出会い、唯一畏敬の念を抱いた人物) が死去され、哀悼句の紹介の後、篇が閉じる最後の文章。
私は先生の意に反し、無能 (ならず) 者の文士になった。文士なんて、人間の屑 (くず) である。
そしてもう一つは 「直木賞受賞修羅日乗」 の、ある日の日記の冒頭。
八月二十日・木曜日。陰、午後、晴。
今朝は私の方が順子ちゃんより早く目が醒めた。順子ちゃんが大きな尻を出して眠ってるので、下穿きをずり降ろして、尻の穴を覗いていると、「ああん。」 と言うて、目を醒ました。
※本当の事かどうかはわかりません。「順子ちゃん」 は巻末のエッセイの高橋順子さん。車谷長吉氏の正真正銘の奥様です。もしも事実であったとしたら、普通、こんなことは書かないでしょう? いくら何でも書けないし、書けば書いたで、書かれた当人は並の心境ではいられないはずです。それがそうではないとしたら、「順子ちゃん」 は、書いた本人をも上回る、かなりな “つわもの“ かも知れません。
この本を読んでみてください係数 85/100

◆車谷 長吉
1945年兵庫県飾磨市(現・姫路市飾磨区)生まれ。本名は、車谷嘉彦。
慶應義塾大学文学部独文科卒業。
作品 「鹽壺の匙」「赤目四十八瀧心中未遂」「妖談」「白痴群」「文士の魂」「銭金について」「贋世捨て人」他多数
関連記事
-
-
『遠巷説百物語』(京極夏彦)_書評という名の読書感想文
『遠巷説百物語』京極 夏彦 角川文庫 2023年2月25日初版発行 物語がほどけ反
-
-
『爆弾』(呉勝浩)_書評という名の読書感想文
『爆弾』呉 勝浩 講談社 2023年2月22日第8刷発行 爆発 大ヒット中! 第16
-
-
『ヒーローインタビュー』(坂井希久子)_書評という名の読書感想文
『ヒーローインタビュー』坂井 希久子 角川春樹事務所 2015年6月18日初版 「坂井希久子」で
-
-
『貘の耳たぶ』(芦沢央)_取り替えた、母。取り替えられた、母。
『貘の耳たぶ』芦沢 央 幻冬舎文庫 2020年2月10日初版 あの子は、私の子だ。
-
-
『文豪、社長になる』(門井慶喜)_書評という名の読書感想文
『文豪、社長になる』門井 慶喜 文春文庫 2025年7月10日 第1刷 「芥川君、ありがとう
-
-
『文庫版 オジいサン』(京極夏彦)_なにも起きない老後。でも、それがいい。
『文庫版 オジいサン』京極 夏彦 角川文庫 2019年12月25日初版 72歳の益
-
-
『ファーストクラッシュ』(山田詠美)_ 私を見て。誰より “私を” 見てほしい。
『ファーストクラッシュ』山田 詠美 文藝春秋 2019年10月30日第1刷 初恋、
-
-
『ぼくがきみを殺すまで』(あさのあつこ)_書評という名の読書感想文
『ぼくがきみを殺すまで』あさの あつこ 朝日文庫 2021年3月30日第1刷 ベル
-
-
『パトロネ』(藤野可織)_書評という名の読書感想文
『パトロネ』藤野 可織 集英社文庫 2013年10月25日第一刷 同じ大学に入学した妹と同居す
-
-
『ブルース』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文
『ブルース』桜木 紫乃 文芸春秋 2014年12月5日第一刷 昨年12月に出た桜木紫乃の新刊 『
















