『新しい花が咲く/ぼんぼん彩句』(宮部みゆき)_書評という名の読書感想文

『新しい花が咲く/ぼんぼん彩句』宮部 みゆき 新潮文庫 2025年12月1日 発行

宮部みゆき、最新短編集! 「ぼんぼん彩句改題

ミステリー、ホラー、社会派、人間ドラマ・・・・・・・。現代を舞台にした、心揺さぶる12の物語

寿退社後に婚約破棄されたアツコが行く当てもなく乗ったバスの終点で見たもの。学級閉鎖で留守番中のアタル君が巻き込まれた不思議な事件。自殺同然の事故で兄を亡くした妹が、偶然出会った中学生。俳句から着想を得て生まれた物語は、十七音の枠を超え、色彩豊かな無限の世界へ広がってゆく。人生の機微を掬い取るように描く、怖くて、切なくて、涙を誘う、極上の短編集。(新潮文庫

十二の俳句と、(それをもとに著者が創作した) 十二の短編小説の世界をお楽しみください。ジャンルは様々で、中にとても怖い話が混ざっています。倉坂鬼一郎氏 (作家・俳人) による解説には、個々の作品ごとに倉坂氏が選んだ一句も新たに付け加えられて、趣向に富んだ一冊となっています。はじめの二作品を紹介しましょう。

枯れ向日葵呼んで振り向く奴がいる
枯れた向日葵のイメージから、ヒロインの境地を肉付けしていった作品でしょう。婚約者の理不尽な行動で婚約を破棄されてしまったヒロインには同情を禁じ得ませんが、路線バスで旅に出ることによって再生の風が吹いてきます。その風に吹かれた枯れ向日葵の群れにヒロインが声をかけるシーンは忘れがたい名場面です。
「枯れ」 つながりで一句付けてみます。
一対か一対一か枯野人  鷹羽狩行 (たかはしゅぎょう)
遠くの枯野に二つの人影が見えます。仲が良ければ 「一対」 ですが、これから決闘に及ぶ 「一対一」 かもしれません。機知に富んだ、騙し絵のような名句です。

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鋏利し庭の鶏頭刎ね尽くす
カタストロフから演繹的に人物関係などを造型していった作品でしょう。この印象深い幕切れに至るまでに、さまざまな角度や視点から物語に光が照射されていきます。群像劇にして心理劇。カタストロフを最も効果的に見せるために、作者が巧緻に物語を紡いでいく手際が読みどころの一篇です。
二三本鶏頭咲けり墓の間  正岡子規
素直に鶏頭の句を付けてみました。子規の有名な鶏頭の句は 「鶏頭の十四五本もありぬべし」 で、この句が駄作か秀作かという 「鶏頭論争」 が長く続いたほどですが、鶏頭の姿がただちに浮かぶこの句のほうが好みです。

と、こんな感じで、倉坂氏は十二句全てに新たな一句を添えています。これがまた面白い。

※俳句一つで、(おそらく詠んだ本人の意図とはまるで違う) 物語が仕上がっています。次から次へ、テーマは縦横無尽に。これぞプロの仕事といえる話を十二篇、存分にご堪能ください。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆宮部 みゆき
1960年東京都江東区生まれ。
東京都立墨田川高等学校卒業。

作品 「我らが隣人の犯罪」「火車」「蒲生邸事件」「理由」「模倣犯」「名もなき毒」「過ぎ去りし王国の城」「今夜は眠れない」「スナーク狩り」他多数

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