『感染領域』(くろきすがや)_書評という名の読書感想文
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『感染領域』(くろきすがや), くろきすがや, 作家別(か行), 書評(か行)
『感染領域』くろき すがや 宝島社文庫 2018年2月20日第一刷
【2018年・第16回「このミステリーがすごい! 大賞」優秀賞受賞作】 感染領域 (宝島社文庫 「このミス」大賞シリーズ)
第16回 『このミステリーがすごい! 』 大賞 「優秀賞」 受賞作品
さて、みなさん。みなさんは数あるミステリー作品の中で稀にある〈農業ミステリー〉というものについてはどうなのでしょう。いかにも地味で、興味もないし、(そもそもしたことがないので) 関心の持ちようがない - といったところでしょうか?
何かしら農業の経験があるとか、(農業に)関連する仕事をしているとか、過去にしたことがあるとか、もしくは、以前、(加工食品等で)ただならぬ健康被害にあったことがある(あるいは、あいそうになったことがある)ような - そんなことでもないと、あえて読もうとは思わないのかもしれません。
専門用語が多くやや難解で、しばしばと、自分は今何を読んでいるのだろうと、あるいは何を読まされているのだろうといった感じになります。「知識」だけで読もうとすると面白味は半減し、逆に、実体験が伴うと面白さが倍増する。この手の本はそんなところがあるのではないかと。
あらすじは、こうです。
物語は、農林水産省消費・安全局植物防疫課課長の里中しほりが帝都大学の山際研究室を訪ねる場面から始まってゆきます。山際教授は植物病理学の大家だったのですが、彼女の目当てはその弟子である、助教の安藤仁でした。
九州で、本来「緑色であるべきはずのトマトの葉や茎が赤変する」病気が発生しているのだといいます。教授の命もあり、安藤は彼女とともに熊本の野菜農家を訪ねます。行くと病状は深刻で、おそらく原因はウイルスによるものと思われたのですが、真相は不明。帰京後、安藤は感染したサンプルの分析を旧知の天才バイオハッカー・モモちゃんに依頼します。
翌日、安藤は山際研究室と連携している日本最大の種苗メーカー・クワバ総合研究所に勤める友人の倉内に会うべくつくばに向かうのですが、待っていたのは倉内の訃報。当初は自殺と思われたのですが、早々に、倉内は何者かによって殺されたのではないかという疑念が浮上してきます。
五日後、安藤はクワバの会長兼CEOである鍬刃太一郎に呼び出され、クワバが収穫後も熟さない新種のトマト “kagla(カグラ)” を開発中であり、倉内がその研究担当者だったと知らされます。そして、倉内の仕事を安藤に継いでほしいと。
快諾した安藤は倉内の部下・久住真理から研究のあらましを聞き出します。すると、実験内容を記した倉内のノートの一部が破かれており、久住は、そこには 1121 という数字の殴り書きがあったのだと言います。そして、そのページを破ったのは倉内の上司・一ノ関久作だと。
やがてウイルスの実体が判明、モモちゃんと安藤はそれをスレッドウイルスと名付けます。その矢先、帝都大学農学部の圃場が何者かに荒らされたという知らせが入ります。目当てはどうやら安藤がクワバから託されたカグラの原木らしいとわかり、やがて魔の手は安藤自身にも及び ・・・・・・・、と続いてゆきます。
※(実は解説にもあるのですが) 農業をテーマにしたミステリーといえば、やはり一番に思い出すのは、永井するみの 『枯れ蔵』 という小説。
これはおもしろい。素人にも十分わかるし、ついてゆけます。この作品は 第1回 新潮ミステリー倶楽部賞 を受賞しています。『枯れ蔵』がいわば「大賞」なのに対し、この『感染領域』は惜しくも次点の「優秀賞」。二冊を読み比べ、その「差」を感じてみてはどうでしょう。
この本を読んでみてください係数 80/100
【2018年・第16回「このミステリーがすごい! 大賞」優秀賞受賞作】 感染領域 (宝島社文庫 「このミス」大賞シリーズ)
◆くろき すがや
菅谷敦夫と那藤功一の二人による作家ユニット。第16回『このミステリーがすごい! 』大賞・優秀賞を受賞し、本作にてデビュー。
菅谷敦夫/1965年、神奈川県生まれ。東京大学文学部卒業。フリーランスで美術系のライター業に従事。
那藤功一/1963年、青森県生まれ。東京大学経済学部卒業。現在は、広告会社の営業部門に所属。
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