『きみは誤解している』(佐藤正午)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
最終更新日:2024/01/10
『きみは誤解している』(佐藤正午), 佐藤正午, 作家別(さ行), 書評(か行)
『きみは誤解している』佐藤 正午 小学館文庫 2012年3月11日初版
出会いと別れ、切ない人生に輝く一瞬と普遍的な人間心理を、競輪場を舞台に透明感あふれる文章で綴った珠玉の作品集。(小学館文庫)
競輪場を舞台に綴られた切ない6つの物語
きみは誤解している -「ねえ聞いてるの? 自分のことを僕って呼ぶ人間がギャンブラーになんかなれるわけないって、あたしは言ったのよ」 彼女はたしなめるように彼に言う。彼は彼女の婚約者で、唯一の趣味が競輪。死期が近づく父親の当たり車券を元手に、これを最後にと、彼は大きな勝負に挑もうとする。
遠くへ - 信用組合に勤める女が、別府の競輪場でギャンブルの真髄を見い出した話。
この退屈な人生 - 十三年間、競輪で儲けた金で独りぼっちで暮らす男の話。
女房はくれてやる - 夜明けのくしゃみと三万円分のはずれ車券のせいで、夫婦のあいだに波風が立ちはじめた鮨職人の言い分。
うんと言ってくれ - 賭けに負けたことがない女子高生の、競輪場でする淡い恋の話。
人間の屑 - 八年前のある出来事をきっかけに車券を買わなくなった男が、会社の金を持ち出したという兄を追い、佐世保競輪場へと向かう。
※「人間の屑」追記(解説より)
付けも付けたりというタイトルに怯む読者もあろう。ギャンブルに憑かれた男と、その男に魅了されてしまった女。その両者の間に居心地悪く身をおく主人公の男は、なすすべもないまま彼らのために右往左往させられる。(後略)
- この作品において、人間のクズとは誰が、誰に向かって言ったのか。何をしてそう言わしめたのか - 正しいことが実はそうではないような、そんな感じがしてきます。
賭け事なんかに興味はない、競輪のことなんて何も知らない、というあなた。どうか、それを理由に読まずにおかないでください。これは競輪についてを語った本ではありません。たまたま競輪ではありますが、ここには生きるがための普遍的な命題、人生の「ままならなさ」が語られています。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆佐藤 正午
1955年長崎県生まれ。
北海道大学文学部中退。
作品 「永遠の1/2」「Y」「リボルバー」「個人教授」「アンダーリポート/ブルー」「彼女について知ることのすべて」「身の上話」「鳩の撃退法」「月の満ち欠け」他多数
関連記事
-
-
『夏の裁断』(島本理生)_書評という名の読書感想文
『夏の裁断』島本 理生 文春文庫 2018年7月10日第一刷 小説家の千紘は、編集者の柴田に翻弄さ
-
-
『地面師たち』(新庄耕)_書評という名の読書感想文
『地面師たち』新庄 耕 集英社文庫 2022年2月14日第2刷 そこに土地があるか
-
-
『拳に聞け! 』(塩田武士)_書評という名の読書感想文
『拳に聞け! 』塩田 武士 双葉文庫 2018年7月13日第一刷 舞台は大阪。三十半ばで便利屋のア
-
-
『風の歌を聴け』(村上春樹)_書評という名の読書感想文(書評その2)
『風の歌を聴け』(書評その2)村上 春樹 講談社 1979年7月25日第一刷 書評その1はコチラ
-
-
『孤蝶の城 』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文
『孤蝶の城 』桜木 紫乃 新潮文庫 2025年4月1日 発行 夜のクラブ、芸能界 - スポッ
-
-
『棺桶も花もいらない』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文
『棺桶も花もいらない』朝倉 かすみ U - NEXT 2025年4月25日 初版第1刷発行
-
-
『愛なんて嘘』(白石一文)_書評という名の読書感想文
『愛なんて嘘』白石 一文 新潮文庫 2017年9月1日発行 結婚や恋愛に意味なんて、ない。けれども
-
-
『彼女は存在しない』(浦賀和宏)_書評という名の読書感想文
『彼女は存在しない』浦賀 和宏 幻冬舎文庫 2003年10月10日初版 平凡だが幸せな生活を謳歌し
-
-
『空中庭園』(角田光代)_書評という名の読書感想文
『空中庭園』角田 光代 文春文庫 2005年7月10日第一刷 郊外のダンチで暮らす京橋家のモッ
-
-
『がん消滅の罠/完全寛解の謎』(岩木一麻)_書評という名の読書感想文
『がん消滅の罠/完全寛解の謎』岩木 一麻 宝島社 2017年1月26日第一刷 日本がんセンターに勤

















