『木になった亜沙』(今村夏子)_圧倒的な疎外感を知れ。
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最終更新日:2020/05/31
『木になった亜沙』(今村夏子), 今村夏子, 作家別(あ行), 書評(か行)
『木になった亜沙』今村 夏子 文藝春秋 2020年4月5日第1刷
誰かに食べさせたい。願いが叶って杉の木に転生した亜沙は、わりばしになって若者と出会う (「木になった亜沙」)。どんぐりも、ドッジボールも、なぜだか七未には当たらない。「ナナちゃんがんばれ、あたればおわる」 と、みなは応援してくれるのだが (「的になった七未」)。夜の商店街で出会った男が連れていってくれたのは、お母さんの家だった。でも、どうやら 「本当のお母さん」 ではないようで・・・・・(「ある夜の思い出」)。『むらさきのスカートの女』 で芥川賞を受賞した気鋭の作家による、奇妙で不穏で純粋な三つの物語。(文藝春秋)
生まれ変わったら甘い実をつけた木になりたい - そんなふうに亜沙が願うのは、自分が差し出す全てのものが、決して人には食べてはもらえないからだ。手作りお菓子も給食当番でも、誰も亜沙の手からは受け取らない。受け取ってはもらえない。
ナナちゃんがんばれ、あたればおわる - 七未は体にものがあたらない。ドッジボールをやっても、彼女はいつも最後に残ってしまう。絶対にボールにあたらない。あててもらえば全てが終わる。やがて七未は、そう考えるようになる。
お母さんはあなたの本当のお母さんじゃないの? - 這いずるように移動しながら家を飛び出した真由美は、夜の商店街である男に出会う。男は真由美と同じように腹這いで歩き、結婚相手を探していたのだという。男が連れていったのはお母さんの家だった。
身の毛がよだつ孤立感。想像してください。いっさい他者と関われない地獄と絶望感を。そこに身を置く、ひとりの少女を。
なってみなければ、こんな話は生まれません。思いつきもしない。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆今村 夏子
1980年広島県広島市生まれ。
作品 「こちらあみ子」「あひる」「星の子」「父と私の桜尾通り商店街」「むらさきのスカートの女」等
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