『バールの正しい使い方』(青本雪平)_書評という名の読書感想文

『バールの正しい使い方』青本 雪平 徳間書店 2022年12月31日初刷

僕たちは嘘をつく - 。明日も 生きるために。転校した小学校の先々で事件は起こる。

転校を繰り返す小学生の礼恩が、行く先々で出会うクラスメートは嘘つきばかりだった。
なぜ彼らは嘘をつくのか。

友達に嫌われてもかまわないと少女がつく嘘。
海辺の町で一緒にタイムマシンを作った友達の嘘。
五人のクラスメイトが集まってついた嘘。
お母さんのことが大好きな少年がつかれた嘘。
主人公になりたくない女の子がついた嘘。

さらにはどの学校でもバールについての噂が出回っているのはなぜなのか。
やがて礼恩は、バールを手にとる - 。(徳間書店)

各章と、章の冒頭に太字で書かれた文章を紹介します。

〇プロローグ
〇狼とカメレオン
それは、四年生の春から夏にかけてのことだった。あの子が意味のない嘘ばかりつくのは一体どうしてなのか、考えてみても僕にはわからなかった。
嘘つきが嫌われるのは何となくわかるけれど、嘘をまったくつかない人なんていない。
結局人は、みんな嘘つきなんだ。

〇タイムマシンとカメレオン
それは、小学四年の夏と、小学五年の夏のことだった。
もしタイムマシンが出来たとしたら、僕は過去よりも未来に行ってみたい。
未来を覗くのはとても怖いけれど、それでも過去を覗くことのほうが怖い気がする。
過去を覗いてみたら、きっとその過去を変えたくなってしまうから。
でも過去は変えてはいけないと思う。
変えてしまったら、今が無くなってしまうかもしれないから。どんな今でも、なかったことにしてはいけないと思うから。

〇五人とカメレオン
それは、小学五年の秋のことだった。
自分のためにつく嘘と、他人のためにつく嘘ならどっちがマシなんだろうと考える。
自分の都合のためにつく嘘は大抵自分勝手な感じがするけれど、他人のためにつく嘘は、大抵優しさから始まるもののように思える。

でも、その善意からくる優しい嘘は、次第に守られた本人の重荷になっていくのかもしれない。

〇靴の中のカメレオン
それは、小学六年の春から夏にかけてのことだった。
何かを選択することは難しい。
それはきっと何かを選ぶ事で別の何かを捨てるということにもなるのだから。
これから僕は、正しい選択をとることができるのだろうか。

〇ブルーバックとカメレオン
それは、小学六年の秋から冬にかけてのことだった。
たとえ正しい選択をとれたとしても、その後どうするかがとても重要だと、僕は思う。
何を選び、そしてどのように行動するのか。
僕は今、試されているのかもしれない。
これが本当に正しい選択なのかは、正直わからない。でも僕は、選んだ。バールを正しく使うことを、選んだのだ。

〇ライオンとカメレオン
〇エピローグ

僕は考え、そして思い知るのでした。

僕はバールを正しく使えたのだろうか - 。小学四年生からの三年間で、少年は現実の残酷さと優しさを知る

※なぜ 「バール」 なのかがよくわかりません。のような、のようにふんわりとしている、ものの象徴に、「バール」 は如何なものかと。バールはバール、(鉄でできた) 工具以外の何ものでもありません。

ほかのものでは伝わらないと思う、何か特別な理由があったのでしょうか。嘘の正しい使い方 - とでもすればよかったのに、それでは伝えられない何かがあるのでしょうか? うまく理解できず、腑にも落ちません。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆青本 雪平
1990年青森県生まれ。

作品 「ぼくのすきなせんせい」 で第3回大藪春彦新人賞を受賞してデビュー。2020年に長篇 「人鳥クインテット」 を刊行。本作が長篇第二作となる。

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