『朱色の化身』(塩田武士)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
『朱色の化身』(塩田武士), 作家別(さ行), 塩田武士, 書評(さ行)
『朱色の化身』塩田 武士 講談社文庫 2024年2月15日第1刷発行
事実が、真実でないとしたら。 累計80万部 『罪の声』 本の雑誌が選ぶ2023年度ベスト10 第1位 『存在のすべてを』 につながる感動作
不条理な運命にもがいた、母娘三代の数奇な人生 -
昭和三十一年、四月。福井・芦原温泉を大火が襲う。「関西の奥座敷」 として賑わった街は、三百棟以上が焼失した。六十年後、東京。元新聞記者のライター・大路亨は、失踪した謎の女・辻珠緒の行方を追ううちに、芦原出身の彼女と大火災の因縁に気づく - 。膨大な取材で時代の歪みを炙り出す、入魂の傑作長編。(講談社文庫)
もしも事実が、真実ではないとしたら・・・・・・・
大路は、やがて気付くことになります。「真実は事実の解釈だ。捻じれて固まった家族の彫像に、他人がつけ入るスキなどあるわけがなかった。」 と。母娘三代にわたる苦渋の道は、行けども行けども、果てが見えません。六十年が経ち、珠緒は今何をしているのでしょう。“恙なく“ 暮らしているのでしょうか。
物語は、1956年に起こった大火災の場面から始まる。福井の芦原温泉を襲った大規模な火事は、そこで働いていた市井の人々の人生を変えてしまう。
そして時は流れ、カメラのフォーカスは2020年に至る。新聞記者の父のもとに生まれた大路亨は、同じく新聞記者になるが、今は会社を辞めてライターとして活動している。彼は父に頼まれ、ある女性を探すことになる。彼女の名は、辻珠緒。大人気ゲームの開発者だった。
大路は珠緒を探し始めたが、どうやら彼女はいま失踪している。会社にもメールを送ったまま姿を消した珠緒の足取りを辿って、大路はさまざまな周辺人物に話を聞きに行く。
新卒で入った銀行の同期、京大時代や中学時代の友人、隣人、そして元夫・・・・・・・。珠緒の知り合いたちを探っているうちに、大路は彼女の過酷な人生を知ることになる。
なぜ珠緒は失踪したのか? そしていま、彼女はどこにいるのか?
福井県の大火災と珠緒の人生が交錯する瞬間、大路はなぜ自分がこの取材を続けてきたのか、その意味を理解するのだった。(解説より)
※大路は最初、辻珠緒という女性について、聞く人それぞれの印象が微妙に違い、折々の、その極端な挙動のせいもあって、全体の人物像を上手く描くことができません。成績優秀で、現役で京都大学に合格した珠緒は、抜きん出て美人でもありました。問題は、彼女の “出自“ にありました。
文庫の解説者・三宅香帆氏曰く、「本書が描き出すのは、正義と不正義のその狭間にある、断罪できない傷の問題なのだ」 と。「何が正しくて何が正しくないのか、という問題が重要なわけではない。むしろ、どうすれば正しさと正しくなさの曖昧な世界で、私たちは、心に背負った傷を回復できるのか? という問題こそがもっと問われるべきなのだ」 と。
珠緒は、自身では払いきれない 「過去の因縁」 に苦しめられています。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆塩田 武士
1979年兵庫県生まれ。
関西学院大学社会学部卒業。
作品 「盤上のアルファ」「女神のタクト」「崩壊」「拳に聞け! 」「罪の声」「歪んだ波紋」「存在のすべてを」他多数
関連記事
-
『海よりもまだ深く』(是枝裕和/佐野晶)_書評という名の読書感想文
『海よりもまだ深く』是枝裕和/佐野晶 幻冬舎文庫 2016年4月30日初版 15年前に文学賞を
-
『センセイの鞄』(川上弘美)_書評という名の読書感想文
『センセイの鞄』川上 弘美 平凡社 2001年6月25日初版第一刷 ひとり通いの居酒屋で37歳
-
『成功者K』(羽田圭介)_書評という名の読書感想文
『成功者K』羽田 圭介 河出文庫 2022年4月20日初版 『人は誰しも、成功者に
-
『坂の上の赤い屋根』(真梨幸子)_書評という名の読書感想文
『坂の上の赤い屋根』真梨 幸子 徳間文庫 2022年7月15日初刷 二度読み必至!
-
『十二人の死にたい子どもたち』(冲方丁)_書評という名の読書感想文
『十二人の死にたい子どもたち』冲方 丁 文春文庫 2018年10月10日第一刷 廃病院に集結した子
-
『くちぶえ番長』(重松清)_書評という名の読書感想文
『くちぶえ番長』重松 清 新潮文庫 2020年9月15日30刷 マコトとは、それき
-
『幸せのプチ』(朱川湊人)_この人の本をたまに読みたくなるのはなぜなんだろう。
『幸せのプチ』朱川 湊人 文春文庫 2020年4月10日第1刷 夜中になると町を歩
-
『沙林 偽りの王国 (上下) 』 (帚木蓬生)_書評という名の読書感想文
『沙林 偽りの王国 (上下) 』 帚木 蓬生 新潮文庫 2023年9月1日発行 医
-
『寝ても覚めても』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文
『寝ても覚めても』柴崎 友香 河出文庫 2014年5月20日初版 謎の男・麦(ばく)に出会いたちま
-
『インビジブル』(坂上泉)_書評という名の読書感想文
『インビジブル』坂上 泉 文春文庫 2023年7月10日第1刷 第23回大藪春彦賞