『小島』(小山田浩子)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/05
『小島』(小山田浩子), 作家別(あ行), 小山田浩子, 書評(か行)
『小島』小山田 浩子 新潮文庫 2023年11月1日発行

私が観ると、絶対に負けるの。自宅も、会社も、球場も、またたく間に異界になる。19ヶ国で著作が翻訳され、世界が注目する作家の最新作品集。
「絶対に無理はしないでください」 豪雨に見舞われた地区にボランティアとして赴いた 〈私〉 は、畑に流れこんだ泥を取り除く作業につく。その向こうでは、日よけ帽子をかぶった女性が花の世話をしていた。そこはまるで緑の小島のようで - 。被災地支援で目にした光景を描いた表題作のほか、広島カープを題材にした3作など14編を収録。欧米各国で翻訳され、世界が注目する作家の最新作品集! (新潮文庫)
著者の作品を読み出すと、だいたいいつも 「ああ、前に読んだのもこんな感じだった」 と思い出します。たいていの場合、取り立てて驚くようなことは何も起こりません。激しく心が高揚するわけでもないのに、何を目当てに、私は著者の小説を読もうとするのでしょう。
主人公の 〈私〉 は、豪雨の被災地へボランティアに行くのですが、書きたいことの一番は、おそらくそこではありません。その行為に関わって否応なく目にする周囲の景色、自分と同じにボランティアに参加したどこのだれとも知れぬ人同士が交わす会話や、畑一面が泥に埋まった中で、慣れない作業になんとか工夫して泥を掘り出す様子であるとかの、極めて “ふつうな何か“ が気にとまり、それを見過ごすことができないのだと。
著者の作品を読んでいると、だいたいいつも草地のことを思い出す。読みながら、今、自分はああいう草地にいて、草を両手で分けながら歩いていると感じる。草地のどのあたりにいるのか見当もつかないし、どこに向かって歩いているのかもわからない。たどりつくのに適切なのは河川敷だろう、でも今にも川に出て愕然とするかもしれない。
そのように感じるのは、著者の作品が改行の少ない、セリフの鉤括弧ですら改行の動機にはならない形式のせいかもしれない。ページの版面の上から下まですうっと伸びて密集している文章が、自分より背の高い草の草地に似ているからかもしれない。
この小説が私をどこへ連れて行こうとしているのかぜんぜんわからないままで、でもきっとわからないからこそ、読み進めるのをやめられないせいかもしれない。それからもちろん、著者の作品は草や木の湿気のにおいが立ちのぼる気がするくらい自然の描写が見事であるせいかもしれない。
雑草や栽培されている花、果実、虫や動物は自然とおおざっぱに括ってしまっていいだろう。『小島』 に収録されている14篇には、そういうものがたくさん出てくる。カエルに慣れていない人たちに悲鳴をあげられてしまうヌマガエルと思しき小さな茶色いカエル、かたちや色がいろいろな鶏頭、ベランダの床に取り残されているヒヨドリのヒナ、母は猫だと断定し幼い娘は 「ねこじゃないとおもう」 と疑念を示す謎の生物に正真正銘の全会一致の猫、庭木の赤い実を食べて赤い糞をする大量の鳥たち、住宅街の道に落ちているなんだったかわからない動物の死骸、土手に植わっていて実もついていたのに数日したら切り株だけになっている木、コスモス園、幼稚園の園庭に自生している 「さわるとかぶれる、食べると死ぬ」 草、お隣の柿の木に出た猿、夢の中で飼おうかどうしようかと迷った犬、幼児が埋葬するぼろぼろのモンシロチョウ、獲物を与えても食いつかない蜘蛛、メスのカブトムシの背中の毛、いたるところで目につく雑草雑草雑草、飼われている犬猫鯉、そのほかたくさん。(後略)
だから私は著者の作品を、日々の記録の正確なやつだ、と分類している。私たちは生活のさまざまをいちいち記録しておくことなんかしないから、すぐ忘れて別のものをおぼえてなにごとかをかんじて考えてまたすぐ忘れてしまう。そのことをきっと著者は書いている。(解説より/藤野可織)
※無理にも何かを汲み取ろうとする姿勢はよくありません。書いてあることは書いてあるままに、勝手にあれこれ斟酌しないことです。この手の本は、それに尽きます。
同じ作家の吉田知子氏に、こんな文章があります。彼女 (小山田浩子) が書く小説は - ということで、まさに 「その通り」 ではないかと思い、参考になればと紹介します。
世間にも読者にも何ら迎合していない。中途半端でない。こんな小説を書く人はいない。世界中にいない。誰の人生にもなんの役にも立ちはしない。何も教えてくれない。愉快、爽快、充実、人生の機微、全然無関係。現実と同じ、日常と同じ。筋など、話などないのだ。今脱いだばかりの下着。生温かく、ふるふると震えている。いつでもどこかで、ばあさんたちは唾を飛ばして気味の悪い世間話をしている。結論や人生観などはただの雑音に過ぎない。何が何やらわからなくても日は過ぎる。
この本を読んでみてください係数 85/100

◆小山田 浩子
1983年広島県広島市佐伯区生まれ。
広島大学文学部日本文学語学講座卒業。
作品 「工場」「穴」「庭」「パイプの中のかえる」他
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