『Aではない君と』(薬丸岳)_書評という名の読書感想文

『Aではない君と』薬丸 岳 講談社文庫 2017年7月14日第一刷


Aではない君と (講談社文庫)

あの晩、あの電話に出ていたら。同級生の殺人容疑で十四歳の息子・翼が逮捕された。親や弁護士の問いに口を閉ざす翼は事件の直前、父親に電話をかけていた。真相は語られないまま、親子は少年審判の日を迎えるが。少年犯罪に向き合ってきた著者の一つの到達点にして真摯な眼差しが胸を打つ吉川文学新人賞受賞作。(講談社文庫)

容疑者の少年Aは小学校四年生頃までは活発な少年だったが、両親が離婚してからは所属していたサッカークラブも辞め、学校も欠席がちになっていたという同級生の証言を載せている。東村山市に移ってからからも友達はあまりいなかったようで、親しくしていたのは、被害者の優斗くんとその友人ぐらいだったという。

母親は深夜まで帰らないことが多く、少年Aの自宅が友人たちの溜まり場になっていた、とある。(第一章より)

ここに出てくる「少年A」こそがこの事件の当事者で、実の名を青葉翼といいます。彼はある日の夜、東京都東大和市の多摩湖周辺の雑木林にいて、同級生の藤井優斗を刺殺したとして逮捕されます。

(翼の親権を持つ)母親の青葉純子と、(純子と離婚し、一人暮らしをしている)父親の吉永圭一は、その報せを聞いて酷く動揺します。思いもよらない事態に、二人は同様に、何が起こったのかさえ理解できずにいます。警察は、詳しい事を何も言ってくれません。

翼は犯行そのものは認めたものの、それ以外については何ら語ろうとしません。刑事や弁護士、父親に対してさえ頑なまでに黙秘を通します。何ひとつ有効な供述が得られないまま、やがて翼は家庭裁判所に送致され、その後、少年鑑別所に収容されることとなります。

しかしそこでも翼は態度を変えません。相も変わらず弁護士には強く反発し、黙秘し続けます。困り果てた吉永は、「少年法」の規定に着目し、翼の重い口を開かせようと、それまでは例の無かった保護者自らが「付添人」になるという手立てを思い付きます。

そうすることで翼との接見は格段に自由になります。何があって翼は口を閉ざしているのか。息子にとって唯一友達だった同級生を殺めた本当の理由は何なのか。それを質し、亡くなった被害者に対して明確に謝罪すること。そうしなければ、翼は『逆送』になるやもしれません。

逆送:殺人などの重大事件の場合に、家裁からさらに検察に送致し直されることを言います。犯行時に14歳に達していれば「逆送」になる可能性があり、そうなれば少年も成人と同じように一般の裁判の場で裁かれることになります。

14歳の子供が傍聴人のいる場で裁かれる。それはわが子が、大勢の人間の好奇の目に晒されるということを意味します。父としてそれだけは何があっても避けねばならない。吉永は、強く決意を固めます。

ここに至って吉永は、自分の息子である翼を、初めて「息子」と感じます。翼を引き取った元妻である純子は純子で、事の重大さに耐え切れず、当事者であることを半ば放棄して大阪へ行き、身を隠すようにして日々を過ごしています。

※ 吉永が着目した「少年法」の条文とは、以下のようなものです。

少年法10条1項 少年及び保護者は、家庭裁判所の許可を受けて、付添人を選任することができる。ただし、弁護士を付添人に選任するには、家庭裁判所の許可を要しない。

2項 保護者は、家庭裁判所の許可を受けて、付添人となることができる。

 

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Aではない君と (講談社文庫)

◆薬丸 岳
1969年兵庫県明石市生まれ。
駒澤大学高等学校卒業。

作品 「天使のナイフ」「闇の底」「虚夢」「死命」「友罪」「神の子」「逃走」他多数

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