『赤と白』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文

『赤と白』櫛木 理宇 集英社文庫 2015年12月25日第一刷


赤と白 (集英社文庫)

冬はどこまでも白い雪が降り積もり、重い灰白色の雲に覆われる町に暮らす高校生の小柚子と弥子。同級生たちの前では明るく振舞う陰で、二人はそれぞれ周囲には打ち明けられない家庭の事情を抱えていた。そんな折、小学生の頃に転校していった友人の京香が現れ、日常がより一層の閉塞感を帯びていく・・・・・・・。絶望的な日々を過ごす少女たちの心の闇を抉り出す第25回小説すばる新人賞受賞作。(集英社文庫)

伊奈小柚子(いな・こゆず)の場合
小柚子の母・美帆子(43)は恋多き女性で、独り身となった今、幾人もの男性と付き合っては別れるということを繰り返しています。彼女の喫緊の目的は、今後の人生の伴侶となるべき最善の男性を掴まえて再婚を果たすこと。それを唯一の生きがいに暮らしています。

家事はもとより、娘の小柚子に関してもただただ無関心。自分が幸せになることさえ妨げないなら何をしようと構わない。基本、娘のことはどうでもよいと考えています。

しかし一方では、小柚子は繰り返し母から「自分は娘のためにしたくもない苦労をずっとしてきた」という話を聞かされています。小柚子はそれには反発しながらも、母の稼ぎで暮らせているという事実は否定し難く、仕方なく従順な娘であろうとしています。

小柚子が7歳の時。幼い彼女は、その頃美帆子が付き合っていた男性に卑猥な〈いたずら〉をされたことがあります。小柚子にとってそれは消すに消せない耐え難い記憶で、母・美帆子にはもとより、他の誰にも打ち明けられずにいます。しかしそれを美帆子は知っており、娘である小柚子に対し、あろうことか逆恨みの感情を抱いています。犯された娘に対し、娘は自分の恋人を盗んだのだと。

青木弥子(あおき・やこ)の場合
弥子が住む家の離れには、母方の叔父なる人物=弥子の母の、歳の離れた弟が住んでいます。彼はいわゆる「ひきこもり」で、働いたことがありません。部屋から出るのはトイレのときだけ。ろくに風呂にも入りません。三度三度の食事は、母か弥子かが運びます。

幼稚園の頃からずっと、弥子は事あるごとに母から言い聞かされていたことがあります。おかあさんが死んだら代わりに叔父さんの世話をするのは、あんたなんだと。あんたは叔父さんの老後の面倒をみさせるために、産んだ子なんだと。

この小説は、同じ性を持つ母と娘の、(親子とはいえ父と息子には起こるはずのない)一筋縄ではいかない捩じくれた関係性を描いて余りあるものがあります。

小柚子と弥子の他にも、小柚子の幼馴染みの越智百香・京香の双子の姉妹や、小柚子と弥子が通う高校の同級生・戸川苺実についても、その母娘関係にみられる捩じれた心のあり様は、強い閉塞感を伴って、やがて思わぬ事態を招くことになります。

一見平凡な高校生である彼女らは、内にそれぞれ、知られたくないある特別な事情を抱えています。呻吟は暗く深刻で、出口が見えません。

その元凶が母だったとしたらどうでしょう?  詮索し、疑うべき人物が母だとしたら、母を母と思えなくなったとしたら、あなたは何とするのでしょうか。

 

この本を読んでみてください係数 80/100


赤と白 (集英社文庫)

◆櫛木 理宇
1972年新潟県生まれ。
大学卒業後、アパレルメーカー、建設会社などの勤務を経て、執筆活動を開始する。

作品 「ホーンテッド・キャンパス」「侵蝕 壊される家族の記録」「死刑にいたる病」「僕とモナミと、春に会う」「209号室には知らない子供がいる」他多数

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