『四十回のまばたき』(重松清)_書評という名の読書感想文

『四十回のまばたき』重松 清 幻冬舎文庫 2018年7月25日18版


四十回のまばたき (幻冬舎文庫)

結婚7年目の売れない翻訳家圭司は、事故で妻を亡くし、寒くなると「冬眠」する奇病を持つ義妹耀子と冬を越すことになる。多数の男と関係してきた彼女は妊娠していて、圭司を父親に指名する。妻の不貞も知り彼は混乱するが粗野なアメリカ人作家と出会い、その乱暴だが温かい言動に解き放たれてゆく。欠落感を抱えて生きる全ての人へ贈る感動長編。(幻冬舎文庫)

圭司は、依頼された翻訳の長編小説の邦題を、原題に忠実に 『あなたについて』 と付けます。中にこんな一節があり、彼はこの箇所をかなり気に入っています。

義務と責任とは似ているようでいて明らかに違う。義務には常に 『かくあるべし』 がつきまとうが、責任にはそれはない。 『かくあるべし』 を律儀になぞるのも責任の取り方のひとつなら、『くそくらえ』 の精神で逃げ出すのも立派な責任の取り方である。要するに、義務は神に対してなされるもので、責任はあなた自身に対してなされるものである。

そうだとも。あなたはあらゆるものに 『くそくらえ』 の精神で責任を取ってきて、あなたは常にあなたを許してきた。そのぶん多くの友人と信用を失ってはしまったが、幸いなことにあなたは政治家として立つ気もなければクレジットカードをつくるつもりもない。そんな人生においては、友人と信用とは必ずしも必要ではないのだ。(P43)

物語の冒頭はこうです。

耀子は、1980年代の冬を知らない。
最後の冬の記憶は、1980年12月8日のジョン・レノンの暗殺だった。

その年24歳になる彼女は、その出来事以来、毎年冬になると眠ってしまうようになります。冬の間の耀子は、一日の九割以上を眠って過ごします。残りの一割たらずの時間で食事を摂り、トイレに行き、風呂に入ります。

耀子は、なにも喋らず、なにも考えず、なにも記憶に残しません。夏が来て、秋が来て、春が来る。北の地方に雪のマークが記された新聞の天気図を眺めながら目を閉じて、次に目を開けると天気図には桜前線が描かれています。

まるでページが途中で抜け落ちた本を読んでいるような。そんなふうにして、耀子は十三年間、これまでの人生の半分以上を過ごしてきたのでした。

圭司が初めて耀子に会ったのは、6年前のことです。

耀子は十八歳で、その年の夏に母親をがんでうしなっていた。父親は、彼女が三歳のときに肝硬変で世を去っている。彼女の家族は東京に住む六歳違いの姉の玲子だけになってしまい、故郷の町から東京までは、気軽に行き来できるような距離ではなかった。

親族会議が何度か開かれ、耀子は春から夏までは故郷で一人暮らしをして、秋と冬を新婚間もない玲子の家で過ごすことになった。

玲子の夫は、妻のたった一人の家族を見捨てることもできず、ベランダに面した一番陽あたりのいい部屋を耀子に与えることと引き換えに、母親の生命保険金の一部を頭金にして郊外に3LDKのマンションを買った。人が善いのか計算高いのかわからない耀子の義兄が、つまり、ぼくだ。(P7)

※ここまで読んだだけでは何が始まろうとしているのか見当もつきません。思うに、これまで読んだ重松清の小説とはちょっと違う雰囲気があります。

大抵の場合 “主役” を務める “子ども” が登場せず、”大人” ばかりの話が書いてあります。滅多にはないセックスシーンが描かれ、大人の、男と女の “いかんともしがたい” 関係についてが縷々書いてあります。

四十回のまばたきとは? 中盤以降、それは圭司が翻訳した小説の原作者が、彼に会いたいと、アメリカからわざわざプライベートで日本へやって来たところから、徐々に明らかになっていきます。

ぼろぼろのアーミージャケットを着た大男 -「セイウチのような男だ、というのが第一印象だった。」- というおよそ小説家らしくないその人物との出会いが、やがて、その答えを教えてくれることになります。すると、この物語の作者が重松清以外には考えられなくなります。

 

この本を読んでみてください係数 85/100


四十回のまばたき (幻冬舎文庫)

◆重松 清
1963年岡山県津山市生まれ。
早稲田大学教育学部国語国文学科卒業。

作品「定年ゴジラ」「カカシの夏休み」「ビタミンF」「十字架」「流星ワゴン」「疾走」「カシオペアの丘で」「ナイフ」「星のかけら」「また次の春へ」「ゼツメツ少年」他多数

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