『墓地を見おろす家』(小池真理子)_書評という名の読書感想文

『墓地を見おろす家』小池 真理子 角川ホラー文庫 2014年2月20日改訂38版


墓地を見おろす家 (角川ホラー文庫)

都心・新築しかも格安という抜群の条件のマンションを手に入れ、移り住んだ哲平一家。緑に恵まれたその地は、広大な墓地に囲まれていたのだ。よぎる不安を裏付けるように次々に起きる不吉な出来事、引っ越していく住民たち。やがて、一家は最悪の事態に襲われる - 。土地と人間についたレイが胎動する底しれぬ怖さを圧倒的な筆力で描き切った名作中の名作。モダンホラーの金字塔である。(角川ホラー文庫)

物語の舞台となるのは、山の手とおぼしき都内の閑静な区域に建てられた8階建てのマンションである。JRの駅から歩いて7、8分、電車に乗れば都心までわずか20分というめぐまれたロケーションで、学校、病院、買い物と、何ひとつとして不自由はない。

だが、たったひとつ問題があった。マンションの目前には、広大な墓地が広がっていたのだ。そこに、主人公一家である広告代理店に勤務するサラリーマンとその家族が引っ越してくる。(解説より抜粋)

一家が東京都N区高井野4丁目に建つ 〈セントラルプラザマンション〉 を購入したのは、一にも二にもその販売価格の安さにありました。

8階建てのマンションにわずか14世帯。1フロアに2世帯という贅沢な造りで、おまけに地下室には各戸専用のトランクルームまで設置してあります。

価格は、各戸一律に3,500万円。準備のための資金とそれまでの暮らしを思えば、これ以上の物件はない - 多少の難はあれ、加納哲平と美沙緒夫婦は、それを承知でここと決めたのでした。

まさかこんなことになるとは・・・・・・・、そう思うのは、少し後になってからのことです。

※このマンションには、地下室に各戸専用のトランクルーム (物置) が設置してあります。地下1階にあるこの場所へ行くにはエレベーターを使用します。どういう理由からか階段はなく、1基あるエレベーターでしか行き来ができません。

もしもです。

何かしら事情があって、エレベーターが動かなくなってしまったとしたらどうでしょう? そしてそれが地上階のどこかではなく、地下室でのことだったとしたら?

あろうことか、地下室には緊急時に外部と連絡する手立てさえ講じられてはいません。密閉された空間のはずの地下室にいて、吹くはずがない風が吹いたとしたらどうでしょう。そして、それが怖気を震うほどの肌寒さだったとしたら -

部屋の奥の壁の向こう側から、ざわざわと、大勢の人の話し声のような物音が聞こえてきたとしたらどうでしょう? 人とは違う  “人の気配”  があって、ぞわぞわと、にじり寄ってきたとしたら。突然天井の電気が激しく点滅を始め、やがてふっと消えたとしたらどうでしょう。

「どこかから風が吹いてるんです」 哲平が答えた。後ろを振り向いた。懐中電灯の明かりが届かない地下室の隅の暗闇の中で、何かが動いたような気がした。ほんのつかのま、彼はその動いたものが、おそろしい光を発して自分たちを威嚇したような気がした。

だが、それは気のせいだった。彼はおびえる自分をふるいたたせ、注意深くあたりを見回した。(P155)

このとき哲平は、まだ半信半疑でいます。彼が 「気のせいだ」 と思ったそれは、やがて思う以上の現実となり、哲平一家はもとより彼の弟夫婦をも巻き込んで、取り返しのつかない事態へと突き進んでいきます。

明かりはついているものの動かないエレベーター。地下室だけが停電しています。

そのうち、マンションの窓という窓が開かなくなります。マンション入口のガラスドアがペンキでも塗ったかのように真っ白になり、外がまったく見えなくなります。ドアに近づきよく見ると、それは無数の・・・・・・・、人の手形の集合体であるのがわかります。

具体的なモノは、何ひとつ出てはきません。マンションのすぐ傍には広大な墓地があり、火葬場があり、お寺があります。昔、開発のために掘られたという墓地から続く地下道があり、マンションの建つ場所が終点で、今もそのまま埋められずにあるといいます。

 

この本を読んでみてください係数 80/100


墓地を見おろす家 (角川ホラー文庫)

◆小池 真理子
1952年東京都中野区生まれ。
成蹊大学文学部英米文学科卒業。

作品 「妻の女友達」「恋」「欲望」「虹の彼方」「無花果の森」「沈黙の人」他多数

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