『臨床真理』(柚月裕子)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/09
『臨床真理』(柚月裕子), 作家別(や行), 書評(ら行), 柚月裕子
『臨床真理』柚月 裕子 角川文庫 2019年9月25日初版

人の感情が色でわかる 「共感覚」 を持つという不思議な青年 - 藤木司を担当することになった、臨床心理士の佐久間美帆。知的障害者更生施設に入所していた司は、親しくしていた少女、彩を喪ったことで問題を起こしていた。彩は自殺ではないと主張する司に寄り添うように、美帆は友人の警察官と死の真相を調べ始める。だがやがて浮かび上がってきたのは、恐るべき真実だった・・・・・・・。人気を不動にする著者のすべてが詰まったデビュー作! (角川文庫)
柚月裕子の 『臨床真理』 を読みました。この長編は2008年、宝島社が主催する 『このミステリーがすごい! 』 大賞の大賞を受賞し、2009年に単行本として刊行された作品です。
物語は、ひとりの少女の死をめぐるプロローグのあと、病院内で、女性臨床心理士が青年にカウンセリングを行っている場面へと続く。青年の名は藤木司。彼は公誠学園という知的障害者更生施設に入所していた。あるとき、施設で水野彩という十六歳の少女が手首を切り、救急車で病院に搬送されることになった。ところが同乗した司が、彩の発した言葉をきっかけに暴れだし、隣にいた施設長を医療用のハサミで切りつける騒ぎを起こした。車内で救急救命士らともみあいになり、結果、車は反対車線に飛び出し、対向車と衝突した。司は、警察に身柄を拘束された。やがて鑑定医から統合失調症との診断がくだり、東高原病院に入院したのだ。
本作で主人公をつとめるのは、臨床心理士の佐久間美帆。臨床心理士は、精神科医とは違って医師免許を持たず、病名の診断や投薬といった医療行為はできないが、心理試験やカウンセリングを行い、患者自身の力で精神状態を回復させることを支援していく職業である。その役割は、本人の力で心の病を治すための手助けなのだ。佐久間美帆は、単に謎を解くための探偵役ではなく、自身も危機に直面しつつ、人を助けるために心の裏側を探っていく。そのあたり、『臨床真理』 という題名にも注目だ。「心理」 と 「真理」 をかけた言葉遊びのようなタイトルだが、ここに本作のテーマがこめられている。(解説より抜粋)
無言だった携帯の向こうから、ぽつりとつぶやく声が聞こえた。
あまりに小声だったため、聞き取れなかった。
「何? 聞こえない、もう一度言ってくれ」
わずかな沈黙の後、携帯の向こうから、佐久間の苛立たしげな声が聞こえた。
「だから、司くんは声が色に見えるのよ」
こんどははっきり聞こえた。しかし、言ってる意味がわからない。
佐久間が言うには司という青年は、相手の感情が声でわかるらしい。彼の目には声が色つきで見えていて、その色は話している人間の感情を表しているのだという。その青年が、施設長の安藤は嘘つきだ、と主張しているらしい。安藤が彩という少女の自殺の原因を知っているというのだ。(P158.159)
藤木司は、公誠学園にいるものの、実は知的障害者ではありません。水野彩を守るため、彼女と一緒にいたいという一心で、わざと障害者の “ふり” をしています。彼は特殊な能力を持つ、共感覚者でした。
美帆は新米の臨床心理士で、初めて担当したのが司でした。最初司は美帆に対し、決して心を開こうとしません。美帆が自分に対し、上辺ばかりの同情で接しようとするのがわかるからでした。司には、美帆の心が読めるのでした。
失語症で精神遅滞の彩は、文字さえ書けない少女でした。司と出会ったことで、彩は初めて生きていたいと思います。できればこの先ずっと、司と一緒にいたいと思うようになります。司は - そんな彩が自殺などするはずがない - と思っています。
この本を読んでみてください係数 80/100

◆柚月 裕子
1968年岩手県生まれ。
作品 「盤上の向日葵」「最後の証人」「検事の本懐」「検事の死命」「検事の信義」「朽ちないサクラ」「ウツボカズラの甘い息」「孤狼の血」他多数
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