『逢魔』(唯川恵)_書評という名の読書感想文

『逢魔』唯川 恵 新潮文庫 2017年6月1日発行


逢魔 (新潮文庫)

抱かれたい。触られたい。早くあなたに私を満たしてほしい - 。身分の違いで仲を裂かれ、命を落としたはずの女との、蕩けるほどに甘く激しい交わり。殿様の側室と女中が密かにたがいを慰め合う、快楽と恍惚の果て。淫らな欲望と嫉妬に惑い、魔性の者と化した高貴な女の告白。牡丹灯籠、雨月物語、四谷怪談、源氏物語・・・・・古(いにしえ)の物語に濃厚なエロティシズムを注ぎ描き出した、八つの愛欲の地獄。(新潮文庫)

ラインナップを紹介しましょう。

(1) 夢魔の甘き唇 (ろくろ首)
(2) 朱夏は濡れゆく (牡丹灯籠)
(3) 蠱惑する指 (番町皿屋敷)
(4) 陶酔の舌 (蛇性の婬)
(5) 漆黒の闇は報いる (怪猫伝)
(6) 無垢なる陰獣 (四谷怪談)
(7) 真白き乳房 (山姥)
(8) 白鷺は夜に狂う (六条御息所)

以上、8編。この上なく濃厚な話が次から次へと登場します。中の第二話、「朱夏は濡れゆく(牡丹灯籠)」より

これが、恋なのか - 。

その夜から、新三郎は毎晩、別邸を訪ねるようになった。(中略) 唇を重ねたのは三度目の逢瀬だった。柔らかな感触と甘やかな吐息に、新三郎は我を忘れそうになった。頭の奥がじんじんと痺れ、川の音も風の音も聞こえない。いや、刻さえ止まったような気がした。

舌を差し込みたいという欲求を、新三郎はようやくのことで抑えた。口を吸われるのが初めてであるのは、その固く結んだ唇でわかる。急ぐまい。露はまだ知らない。新三郎の袴の下で固く屹立しているものが何なのかさえも - 。新三郎はひしと、ただひしと露を抱き締めるばかりだ。

旗本のひとり娘である露。一方、新三郎は名もなき一介の浪人。その時代にあって何があろうと許されない仲の二人は、それゆえなお一層逢いたいと胸を焦がします。一線を越えればどんな結末が待っているのか、わかりながらも逸る気持ちを抑えられないでいます。

しばらくの後。

もう気持ちの昂りは抑えようもなかった。ふたりは床に入り、長く唇を重ね合わせた。やがて、新三郎は片方の手で襦袢の紐を解き、襟を開いて露の乳房に触れた。まだ熟れきっていない果実のような弾力が、手のひらに返って来る。

露は一瞬、身を硬くしたが、指先で触れると、小さな乳首が尖るのがわかった。ため息とも、あえぎともつかぬ露の声が新三郎の耳に届いた。やがて、新三郎は露の襦袢の裾を割った。滑らかな肌はしっとりと湿り気を帯びている。

ここまで来れば、あとはもう先へ先へと・・・・。ところが、まだ露は生娘。新三郎は慎重の上にも慎重に事を進めます。

「新三郎さま・・・・」
羞恥のせいか、露が不安の滲んだ声をもらした。

新三郎の指は、時間をかけて秘所まで辿り着いた。淡淡とした恥毛を分け入ってゆき、小さな突起を探り当てる。柔らかく愛撫すると、ああ、と、露の口からため息がこぼれた。突起は固く尖ってゆき、露の身体がほのかに波打っている。

新三郎は玉門に指を移した。しかし、そこはまだわずかな潤いしかなかった。露にとって初めての床入りである。その初々しい反応に、ますます愛しさがつのってゆく。新三郎は身体を放し、露の膝を割って、その奥へと顔を近づけた。

「そんな・・・・」
露の驚く声。構わず、新三郎は舌を這わせた・・・・・

- と、まあ、こんな具合なわけです。

濃厚で執拗で、繰り返しこんな場面が出ては来ますが、不思議と欲情しません。それより何より文章が上手すぎて感心する方が先に立ちます。滑らかなのに絆されて、ついつい次が読みたくなります。

 

この本を読んでみてください係数 85/100


逢魔 (新潮文庫)

◆唯川 恵
1955年石川県金沢市生まれ。
金沢女子短期大学(現金沢学院短期大学)卒業。

作品 「海色の午後」「肩ごしの恋人」「愛に似たもの」「ベター・ハーフ」「100万回の言い訳」「とける、とろける」他多数

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