『夫の骨』(矢樹純)_書評という名の読書感想文
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『夫の骨』(矢樹純), 作家別(や行), 書評(あ行), 矢樹純
『夫の骨』矢樹 純 祥伝社文庫 2019年4月20日初版
昨年、夫の孝之が事故死した。まるで二年前に他界した義母佳子の魂の緒に搦め捕られたように。血縁のない母を 「佳子さん」 と呼び、他人行儀な態度を崩さなかった夫。その遺品を整理するうち、私は小さな桐箱の中に乳児の骨を見つける。夫の死は本当に事故だったのか、その骨は誰の子のものなのか。猜疑心に囚われた私は・・・・・・・ (「夫の骨」)。家族の “軋み” を鋭く捉えた九編。(祥伝社文庫)
●夫は突然逝ってしまった。物置に正体不明の “骨” を遺して・・・・・(表題作 「夫の骨」 第73回日本推理作家協会賞 〈短編部門〉 受賞作)
●恋人すら奪う姉が許せない・・・・・幸せのため絶対に守りたい “大切な人” (「朽ちない花」)
●厚顔な娘に知られてはならない・・・・・可愛い孫に送金する祖母の “献身” (「柔らかな背」)
●妹に劣等感を持つ姉には、隠し続ける秘密が・・・・・その “歪な関係” (「ひずんだ鏡」)
●中学受験に挑む娘と、支える母。”最後の一行” (P172) に秘めた想い (「絵馬の赦し」)
●隣家の犬小屋に閉じ込められた女性が気付いた “遠吠えの理由” (「虚ろの檻」)
●亡父の四十九日の夜、なぜか屋根に上った母が “探していたもの” (「鼠の家」)
●離婚した父と引きこもりだった娘。二人がダムに “捨てたかったもの” (「ダムの底」)
●死んでもらわないと・・・・・ふがいない夫に堪えかねた妻の “殺人計画” (「かけがえのないあなた」)
以上の、すべてがどんでん返し。9つの家族が抱える、9つの “秘密“ が描かれています。
(帯に) 決して覗いてはいけない 「家族の秘密」 想像を超える結末、お約束します。 とあります。
若干解せない箇所があるにはありますが、全体としてはよく出来た作品で、この程度のおぞましさ、辛辣さの加減が私は好きです。受賞作だからというわけではありませんが、やはり冒頭の作品 「夫の骨」 がピカ一だと思います。この人が書いた他の作品を、もっと読みたいと思いました。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆矢樹 純
1976年青森県青森市生まれ。
弘前大学人文学科卒業。
作品 「Sのための覚え書き かごめ荘連続殺人事件」「がらくた少女と人喰い煙突」漫画原作に 「あいの結婚相談所」「バカレイドッグス」等
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