『そして、バトンは渡された』(瀬尾まいこ)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
最終更新日:2024/01/08
『そして、バトンは渡された』(瀬尾まいこ), 作家別(さ行), 書評(さ行), 瀬尾まいこ
『そして、バトンは渡された』瀬尾 まいこ 文春文庫 2020年9月10日第1刷

幼い頃に母親を亡くし、父とも海外赴任を機に別れ、継母を選んだ優子。その後も大人の都合に振り回され、高校生の今は二十歳しか離れていない “父” と暮らす。血の繋がらない親の間をリレーされながらも出逢う家族皆に愛情をいっぱい注がれてきた彼女自身が伴侶を持つとき - 。大絶賛の本屋大賞受賞作。解説・上白石萌音 (文春文庫)
遅まきながら、2019年の本屋大賞 『そして、バトンは渡された』 を読みました。どこまでもヒューマンで心温まる物語 - それが想像できたので、読むのを少し躊躇していました。善良に過ぎて 「ちょっとしんどいかも」 と思っていました。
私には父親が三人、母親が二人いる。家族の形態は、十七年間で七回も変わった。これだけ状況が変化していれば、しんどい思いをしたこともある。新しい父親や母親に緊張したり、その家のルールに順応するのに混乱したり、せっかくなじんだ人と別れるのに切なくなったり。けれど、どれも耐えられる範囲のもので、周りが期待するような悲しみや苦しみとはどこか違う気がする。(本文より)
森宮優子、17歳。高校二年生。
彼女は、生まれた時は水戸優子でした。その後、田中優子となり、泉ヶ原優子を経て、現在は森宮を名乗っています。
優子という名前は、とても気に入っています。しかし、名付けた人物 (実の父と母) が近くにいないため、どういう思いでつけられた名前かはわかりません。
そもそも、幼い頃に亡くなった母のことは (思い出そうとしても) 思い出し様がありません。父は、仕事で行くと決まったブラジルへ一緒に行こうと言ったのでした。
ついて行くか行くまいか、優子は大いに悩みます。その結果、彼女は父と一緒に行くよりも、(日本に残るという) 父の再婚相手の梨花さんと暮らすことを選びます。
これがすべての発端で、その後、優子の意思とは裏腹に、家族の “在り様” が次々と変化していきます。
そして、現在。優子は三人目の “父” となる、森宮壮介と暮らしています。(森宮は 35歳。東大卒で、一流企業に勤めています)
※中々にない状況に、ちょっと戸惑うかもしれません。家族や親子関係について、たとえ血が繋がっていたとしても、何かと揉めることが多い中で、「なわけないでしょうに」 と。
ところが、当の優子はというと、(自分の置かれた状況が) 他人が思うほどには辛くも何ともないらしい。臆せず、健気に、あるがままに受け入れています。そしてその結果、
五人の父と母がおり、血の繋がっていない人ばかりではあるけれど、その全員を大好きだ。
困ったことに、全然不幸ではないのだ。
と。
読めばわかるのですが、これは彼女の見栄や強がりでは決してありません。それが証拠に、登場する人物すべてが善意の塊で、1ミリの悪意もありません。優子はそれを肌で感じています。
この本を読んでみてください係数 80/100

◆瀬尾 まいこ
1974年大阪府生まれ。
大谷女子大学文学部卒業。
作品 「卵の緒」「図書館の神様」「天国はまだ遠く」「優しい音楽」「幸福な食卓」「僕らのごはんは明日で待ってる」「戸村飯店 青春100連発」他多数
関連記事
-
-
『海神 (わだつみ)』(染井為人)_書評という名の読書感想文
『海神 (わだつみ)』染井 為人 光文社文庫 2024年2月20日 初版1刷発行 『悪い夏』
-
-
『しょうがの味は熱い』(綿矢りさ)_書評という名の読書感想文
『しょうがの味は熱い』綿矢 りさ 文春文庫 2015年5月10日第一刷 結婚という言葉を使わず
-
-
『さんかく』(千早茜)_なにが “未満” なものか!?
『さんかく』千早 茜 祥伝社 2019年11月10日初版 「おいしいね」 を分けあ
-
-
『それまでの明日』(原尞尞)_書評という名の読書感想文
『それまでの明日』原 尞 早川書房 2018年3月15日発行 11月初旬のある日、渡辺探偵事務所の
-
-
『赤頭巾ちゃん気をつけて』(庄司薫)_書評という名の読書感想文
『赤頭巾ちゃん気をつけて』庄司 薫 中公文庫 1995年11月18日初版 女の子にもマケズ、ゲバル
-
-
『坂の上の赤い屋根』(真梨幸子)_書評という名の読書感想文
『坂の上の赤い屋根』真梨 幸子 徳間文庫 2022年7月15日初刷 二度読み必至!
-
-
『首里の馬』(高山羽根子)_書評という名の読書感想文
『首里の馬』高山 羽根子 新潮文庫 2023年1月1日発行 第163回芥川賞受賞作
-
-
『スリーピング・ブッダ』(早見和真)_書評という名の読書感想文
『スリーピング・ブッダ』早見 和真 角川文庫 2014年8月25日初版 敬千宗の大本山・長穏寺に2
-
-
『自分を好きになる方法』(本谷有希子)_書評という名の読書感想文
『自分を好きになる方法』本谷 有希子 講談社文庫 2016年6月15日第一刷 16歳のランチ、
-
-
『エンド・オブ・ライフ』(佐々涼子)_書評という名の読書感想文
『エンド・オブ・ライフ』佐々 涼子 集英社文庫 2024年4月25日 第1刷 「理想の死」
















