『そして、バトンは渡された』(瀬尾まいこ)_書評という名の読書感想文

『そして、バトンは渡された』瀬尾 まいこ 文春文庫 2020年9月10日第1刷

幼い頃に母親を亡くし、父とも海外赴任を機に別れ、継母を選んだ優子。その後も大人の都合に振り回され、高校生の今は二十歳しか離れていない “父” と暮らす。血の繋がらない親の間をリレーされながらも出逢う家族皆に愛情をいっぱい注がれてきた彼女自身が伴侶を持つとき - 。大絶賛の本屋大賞受賞作。解説・上白石萌音 (文春文庫)

遅まきながら、2019年の本屋大賞 『そして、バトンは渡された』 を読みました。どこまでもヒューマンで心温まる物語 - それが想像できたので、読むのを少し躊躇していました。善良に過ぎて 「ちょっとしんどいかも」 と思っていました。

私には父親が三人、母親が二人いる。家族の形態は、十七年間で七回も変わった。これだけ状況が変化していれば、しんどい思いをしたこともある。新しい父親や母親に緊張したり、その家のルールに順応するのに混乱したり、せっかくなじんだ人と別れるのに切なくなったり。けれど、どれも耐えられる範囲のもので、周りが期待するような悲しみや苦しみとはどこか違う気がする。(本文より)

森宮優子、17歳。高校二年生。
彼女は、生まれた時は水戸優子でした。その後、田中優子となり、泉ヶ原優子を経て、現在は森宮を名乗っています。

優子という名前は、とても気に入っています。しかし、名付けた人物 (実の父と母) が近くにいないため、どういう思いでつけられた名前かはわかりません。

そもそも、幼い頃に亡くなった母のことは (思い出そうとしても) 思い出し様がありません。父は、仕事で行くと決まったブラジルへ一緒に行こうと言ったのでした。

ついて行くか行くまいか、優子は大いに悩みます。その結果、彼女は父と一緒に行くよりも、(日本に残るという) 父の再婚相手の梨花さんと暮らすことを選びます。

これがすべての発端で、その後、優子の意思とは裏腹に、家族の “在り様” が次々と変化していきます。

そして、現在。優子は三人目の “父” となる、森宮壮介と暮らしています。(森宮は 35歳。東大卒で、一流企業に勤めています)

※中々にない状況に、ちょっと戸惑うかもしれません。家族や親子関係について、たとえ血が繋がっていたとしても、何かと揉めることが多い中で、「なわけないでしょうに」 と。

ところが、当の優子はというと、(自分の置かれた状況が) 他人が思うほどには辛くも何ともないらしい。臆せず、健気に、あるがままに受け入れています。そしてその結果、

五人の父と母がおり、血の繋がっていない人ばかりではあるけれど、その全員を大好きだ。

困ったことに、全然不幸ではないのだ。

と。

読めばわかるのですが、これは彼女の見栄や強がりでは決してありません。それが証拠に、登場する人物すべてが善意の塊で、1ミリの悪意もありません。優子はそれを肌で感じています。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆瀬尾 まいこ
1974年大阪府生まれ。
大谷女子大学文学部卒業。

作品 「卵の緒」「図書館の神様」「天国はまだ遠く」「優しい音楽」「幸福な食卓」「僕らのごはんは明日で待ってる」「戸村飯店 青春100連発」他多数

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