『はるか/HAL – CA』(宿野かほる)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/07 『はるか/HAL - CA』(宿野かほる), 作家別(や行), 宿野かほる, 書評(は行)

『はるか/HAL – CA』宿野 かほる 新潮文庫 2021年10月1日発行

再会した二人の、愛と狂気の行方。

賢人は小さな頃、海岸で一人の少女と出会い恋に落ちる。彼女の名は、はるか。大人になり偶然再会した二人は結婚するが、幸せな生活は突如終わりを告げた。それから月日は経ち、賢人は人工知能の研究者として画期的なAIを発明。「HAL – CA」 と名付けられたそのAIは、世界を一新する可能性を秘めていた - 。『ルビンの壺が割れた』 で大反響を呼んだ著者による、更なる衝撃が待つ第二作。(新潮文庫)

この小説は、若くして亡くなった最愛の妻を想い、AIにその再生を懸けた才能ある一人の男の物語です。彼はその試みを 「はるか再生プロジェクト」 と名付けます。

村瀬賢人は大学から院に進み、修了して新参の電機メーカーに就職。仕事はコンピューターのプログラム開発で、専門は人工知能。いくつかのプログラムを開発して特許を取得し、27歳で取締役に。妻のはるかが不慮の事故で亡くなった11年後、賢人は当時彼の秘書だった優美と結婚。賢人が独立して会社を立ち上げたのは、優美と結婚して3年目のことでした。

賢人が考えたのは、はるかのように話すAIを作ることだった。はるかと同じ声で、はるかと同じように話し、はるかと同じように答え、はるかと同じように笑う。
そんなAIを作れば、はるかと会話を交わすことができる。そこにははるかの実体はないが、生きているはるかと同様のコミュニケーションを取ることができるはずだ。
賢人はそのためのプログラムの開発を決意した。
(本文より)

チームは、賢人とはるかの膨大な会話の録音から、はるかの性格を分析する作業を始めます。全部で1246時間21分ある録音をすべて聞き、はるかの性格を分析します。他にはるかを撮影した映像が69時間45分あり、これらの映像にも会話があり、会話時の表情があります。すべてが貴重な資料でした。

次に賢人は、音声再現システムを作り出すための音響技師たちのチームを作り、続いて、はるかが話す映像を作ろうと考えます。賢人と映像チームは、様々な試行錯誤の末、実際の映像とコンピューターグラフィックスを組み合わせることによって、それを可能にしました。結果、モニター上には、実際にカメラの前ではるかが話しているのと寸分変わらない映像を映し出すことに成功します。

しかし、それでも賢人は満足しません。表情だけが二次元のモニターに現れるのではなく、全身をホログラムで再現できないかと考えたのでした。

5年の月日と莫大な費用を投じ、遂に賢人は夢を叶えます。高性能のCPU (中央処理装置)125台、GPU (グラフィックス処理ユニット) 18台を備えた未知なるAIは完成したのでした。賢人はそれを 「HAL – CA」 と名付けます。

この時、賢人は46歳。AIとして再生したはるかは、今も28歳のままです。

※その後、賢人がした体験を想像してみてください。とうに死んでしまった愛する人が、まるで生き返ったようにして、再び目の前に出現したとしたら。同じ声で、同じように話し、切なげに、とても会いたかったと言ったとしたら・・・・・・、どうでしょう?

 

この本を読んでみてください係数 85/100

◆宿野 かほる
2017年、書き下ろし長編 『ルビンの壺が割れた』 でデビュー。現在に至るまでプロフィールを一切非公表とし、覆面作家として活動している。

関連記事

『合理的にあり得ない』(柚月裕子)_書評という名の読書感想文

『合理的にあり得ない』柚月 裕子 講談社文庫 2020年5月15日第1刷 上水流涼

記事を読む

『逢魔』(唯川恵)_書評という名の読書感想文

『逢魔』唯川 恵 新潮文庫 2017年6月1日発行 抱かれたい。触られたい。早くあなたに私を満たし

記事を読む

『タイニーストーリーズ』(山田詠美)_書評という名の読書感想文

『タイニーストーリーズ』山田 詠美 文春文庫 2013年4月10日第一刷 当代随一の書き手がおくる

記事を読む

『けむたい後輩』(柚木麻子)_書評という名の読書感想文

『けむたい後輩』柚木 麻子 幻冬舎文庫 2014年12月5日初版 14歳で作家デビューした過去

記事を読む

『ふる』(西加奈子)_書評という名の読書感想文

『ふる』西 加奈子 河出文庫 2015年11月20日初版 繰り返し花しすの前に現れる、何人も

記事を読む

『裸の華』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『裸の華』桜木 紫乃 集英社文庫 2019年3月25日第一刷 「時々、泣きます」

記事を読む

『夫の骨』(矢樹純)_書評という名の読書感想文

『夫の骨』矢樹 純 祥伝社文庫 2019年4月20日初版 昨年、夫の孝之が事故死し

記事を読む

『ルビンの壺が割れた』(宿野かほる)_書評という名の読書感想文

『ルビンの壺が割れた』宿野 かほる 新潮社 2017年8月20日発行 この小説は、あなたの想像を超

記事を読む

『平場の月』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文

『平場の月』朝倉 かすみ 光文社 2018年12月20日初版 五十歳の再会 『平

記事を読む

『震える天秤』(染井為人)_書評という名の読書感想文

『震える天秤』染井 為人 角川文庫 2022年8月25日初版発行 10万部突破 『

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『ケモノの城』(誉田哲也)_書評という名の読書感想文

『ケモノの城』誉田 哲也 双葉文庫 2021年4月20日 第15刷発

『嗤う淑女 二人 』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『嗤う淑女 二人 』中山 七里 実業之日本社文庫 2024年7月20

『闇祓 Yami-Hara』(辻村深月)_書評という名の読書感想文

『闇祓 Yami-Hara』辻村 深月 角川文庫 2024年6月25

『地雷グリコ』(青崎有吾)_書評という名の読書感想文 

『地雷グリコ』青崎 有吾 角川書店 2024年6月20日 8版発行

『アルジャーノンに花束を/新版』(ダニエル・キイス)_書評という名の読書感想文

『アルジャーノンに花束を/新版』ダニエル・キイス 小尾芙佐訳 ハヤカ

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑