『監獄に生きる君たちへ』(松村涼哉)_書評という名の読書感想文

『監獄に生きる君たちへ』松村 涼哉 メディアワークス文庫 2021年6月5日7刷

監獄に生きる君たちへ (メディアワークス文庫)

それは、死者から届いた招待状一気読み必至。衝撃ミステリ

廃屋に閉じ込められた六人の高校生たち。あるのは僅かな食糧と、一通の手紙 - 。
【私を殺した犯人を暴け】
差出人は真鶴茜。七年前の花火の夜、ここで死んだ恩人だった。謎の残る不審な事故。だが今更誰が何のために?
恐怖の中、脱出のため彼らはあの夜の証言を重ねていく。児童福祉司だった茜に救われた過去。みんなと見た花火の感動。見え隠れする嘘と秘密・・・・・・・この中に犯人がいる?
全ての証言が終わる時、衝撃の真実が暴かれる。(メディアワークス文庫)

15歳のテロリスト』、『僕が僕をやめる日に続く慟哭と感動の最新作!

テーマは、虐待。舞台となっているのは、70年代に作られた巨大な公営住宅です。

そこは横に長い10階建ての棟が折り重なるように12棟並び、綺麗な円を作り出しています。中央に公園やスーパー、郵便局、美容室等があり、住人は遠出せずとも団地内で生活に必要なほぼすべてのことを賄えるのでした。

造成時こそ人気があったものの、今や当時の活気は見る影もありません。老朽化が進み、棟は色褪せ、駐輪場には誰の物かもわからない玩具やゴミが散乱し、廊下などは入居者が好き勝手に物を置いた無法地帯となり果てています。

団地に残ったのは他人に関心を持たない人間と、一部の噂好きの暇人だけになりました。その 「暇人」 がいけません。近所付き合いを建前に他人の生活にずかずかと踏み込んできます。何かあると楽しそうに集まり、そして人の不幸を嘲笑うのでした。

団地で暮らす、とりわけ多感な少年少女にとって、そんな日々の状況は最悪で、「まるで監獄」 にいるようでもありました。そんな中、団地で一人の少女が自殺します。7年前のことでした。

【廃屋に閉じ込められた高校生6人のうちの一人・福永律の話】

物心つく頃には、律は悲鳴の中にいた。

鈍感でいることが生きる方法だった。しかし、律は対極に位置する子どもだった。
幼少期から律には奇妙な特技があった。

団地に暮らす数千の人々の痛みが、彼には自分のことのように感じ取れた。表情から、声音から、背筋から、歩幅から、呼吸から、その理由は律にも分らない。
才能、先天的な能力だ。人の姿を見かけた時、相手の心に溜まる苦悩が音となって耳に届く。いつしか律はそれを 『悲鳴』 と呼んだ。

決して素晴らしいことではない。周囲の悲鳴に律の心は圧迫され続けた。
そもそも両親に報告したところで、隣人の痛みが解消されることなどないのだ。律が気づいたからといって、その都度両親が他人の家庭に踏み込めるわけがない。
だから律は暴れるしかなかった。

同級生の腕を折り、警察から児童相談所に引き渡された後も暴力は止められなかった。一時保護所に入れられた後も、そこで子ども同士のイジメを見て、律は加害者の顔を殴りつけた。また別の一時保護所に移されることになった。その暴力性には病名がつけられ、精神を安定させる薬が処方されたが、効果は見られなかった。
担当の児童福祉司にも愛想を尽かされたのか、別の児童福祉司が律の担当になった。(本文より抜粋して掲載)

その人物こそが、真鶴茜その人でした。

この本を読んでみてください係数 80/100

監獄に生きる君たちへ (メディアワークス文庫)

◆松村 涼哉
1993年静岡県浜松市生まれ。
名古屋大学卒業。

作品 大学在学中に応募した 『ただ、それだけでよかったんです』 が、第22回電撃小説大賞 《大賞》 を受賞しデビュー、ヒットを果たす。他に 「おはよう、愚か者。おやすみ、ボクの世界」「1パーセントの教室」「僕が僕をやめる日」など

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