『1R 1分34秒』(町屋良平)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/10 『1R 1分34秒』(町屋良平), 作家別(ま行), 書評(あ行), 町屋良平

『1R 1分34秒』町屋 良平 新潮社 2019年1月30日発行

デビュー戦を初回KOで飾ってから三敗一分。当ったかもしれないパンチ、これをしておけば勝てたかもしれない練習。考えすぎてばかりいる21歳プロボクサーのぼくは自分の弱さに、その人生に厭きていた。長年のトレーナーにも見捨てられ、変わり者のウメキチとの練習の日々が、ぼくを、その心身を、世界を変えていく--。(新潮社)

第160回芥川賞受賞作

21歳の 「ぼく」 の、ボクシングの話。

ボクシングの事ばかりが書いてあります。

彼はれっきとしたプロボクサーで、デビュー戦こそ初回KOという華々しい勝利を飾ったものの、その後がいけません。負けが込み、次戦に向けたモチベーションは下がる一方で、あれやこれやと、考えてばかりいます。

考えて、考えて - 、そのうち、夢に出てくる対戦相手を “親友” と思うようになるのは、

思うに、

自覚があるかどうかはともかくも、おそらく彼は、本当にしたくてボクシングをしているわけではないのだろうと。ボクシングを介し、たぶん彼は、別の何かを掴み取ろうとしています。

先輩ボクサーのウメキチが新しく彼のトレーナーになると、タメ口を利き、ウメキチの言うことは聞こうともしません。

ところが、それをウメキチは逆手に取り、次第次第に、弱虫だった彼を真のファイターへと変化させてゆきます。

※ボクシングなんて観たことないし興味もない - という人にはちょっとしんどいかもしれません。ある時期、何かのスポーツに集中的に取り組んだ経験があるというなら、「ぼく」 が言わんとする “ニュアンス” はわかるはずです。伝えたいのは、「ボクシング」 のことではありません。

この本を読んでよかったと思う方は、ぜひ、著者のデビュー作 『青が破れる』 を読んでみてください。本作とよく似たシチュエーション、よく似た人物らが登場します。

この本を読んでみてください係数  85/100

◆町屋 良平
1983年東京都生まれ。

作品 「青が破れる」「しき」「ぼくはきっとやさしい」など

関連記事

『あいにくあんたのためじゃない』(柚木麻子)_書評という名の読書感想文

『あいにくあんたのためじゃない』柚木 麻子 新潮社 2024年3月20日発行 差別、偏見、思

記事を読む

『ふたり狂い』(真梨幸子)_書評という名の読書感想文

『ふたり狂い』真梨 幸子 早川書房 2011年11月15日発行 『殺人鬼フジコの衝動』を手始

記事を読む

『おらおらでひとりいぐも』(若竹千佐子)_書評という名の読書感想文

『おらおらでひとりいぐも』若竹 千佐子 河出書房新社 2017年11月30日初版 結婚を3日後に控

記事を読む

『オオルリ流星群』(伊与原新)_書評という名の読書感想文

『オオルリ流星群』伊与原 新 角川文庫 2024年6月25日 初版発行 星がつないだ、心ふる

記事を読む

『あこがれ』(川上未映子)_書評という名の読書感想文

『あこがれ』川上 未映子 新潮文庫 2018年7月1日発行 第1回 渡辺淳一文学賞受賞作品 ま

記事を読む

『大人になれない』(まさきとしか)_歌子は滅多に語らない。

『大人になれない』まさき としか 幻冬舎文庫 2019年12月5日初版 学校から帰

記事を読む

『EPITAPH東京』(恩田陸)_書評という名の読書感想文

『EPITAPH東京』恩田 陸 朝日文庫 2018年4月30日第一刷 東日本大震災を経て、刻々と変

記事を読む

『JK』(松岡圭祐)_書評という名の読書感想文

『JK』松岡 圭祐 角川文庫 2022年5月25日初版 読書メーター(文庫部門/週

記事を読む

『夫の墓には入りません』(垣谷美雨)_書評という名の読書感想文

『夫の墓には入りません』垣谷 美雨 中公文庫 2019年1月25日初版 どうして悲し

記事を読む

『おいしいごはんが食べられますように』(高瀬隼子)_書評という名の読書感想文

『おいしいごはんが食べられますように』高瀬 隼子 講談社 2022年8月5日第8刷

記事を読む

Comment

  1. 武蔵大学人文学部卒業は誤りです、WIkipediaで一時期同大学を卒業したかのような虚偽の情報が記載され、それを情報源にした一部のサイトで記載が残っていますが、本人は「大学には行っていない」とインタビューを受けた複数のサイトで明言しております。

    http://www.webdoku.jp/rensai/sakka/michi210_machiya/20190928_4.html

    https://web.kawade.co.jp/bungei/909/

    • shingo より:

      夕焼けの贅肉さん

      ご指摘、ありがとうございます。
      早速に削除いたしました。

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『友が、消えた』(金城一紀)_書評という名の読書感想文

『友が、消えた』金城 一紀 角川書店 2024年12月16日 初版発

『連続殺人鬼カエル男 完結編』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『連続殺人鬼カエル男 完結編』中山 七里 宝島社 2024年11月

『雪の花』(吉村昭)_書評という名の読書感想文

『雪の花』吉村 昭 新潮文庫 2024年12月10日 28刷

『歌舞伎町ゲノム 〈ジウ〉サーガ9 』(誉田哲也)_書評という名の読書感想文

『歌舞伎町ゲノム 〈ジウ〉サーガ9 』誉田 哲也 中公文庫 2021

『ノワール 硝子の太陽 〈ジウ〉サーガ8 』(誉田哲也)_書評という名の読書感想文

『ノワール 硝子の太陽 〈ジウ〉サーガ8 』誉田 哲也 中公文庫 2

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑