『青が破れる』(町屋良平)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
『青が破れる』(町屋良平), 作家別(ま行), 書評(あ行), 町屋良平
『青が破れる』町屋 良平 河出書房新社 2016年11月30日初版
この冬、彼女が死んで、友達が死んで、友達の彼女が死んだ。ボクサーになりたいが、なれない青年・秋吉。夏澄との不倫恋愛を重ねながら、ボクシングジムでは才能あるボクサー・梅生とのスパーリングを重ねる日々。ある日、友人のハルオに連れられハルオの恋人・とう子の見舞いへ行く。ハルオに言われその後はひとりでとう子のもとを訪ねることになるが・・・・・・・。
清新にして感情的な新たなる文体。21世紀のボクシング小説にして、現代を象る青春小説である第53回文藝賞受賞の表題作「青が破れる」に加え、書き下ろし短篇 「脱皮ボーイ」 と 「読書」 を収録。(アマゾン商品説明より抜粋)
秋吉 ボクサーになりたい主人公。でも才能なし。
梅生 秋吉のジムの同僚。かなり才能あり。
ハルオ 秋吉の親友。たまに唐突に消える。
とう子 ハルオの恋人。余命短し。美人。
夏澄 秋吉の恋人。夫・子あり。つまり不倫。
他に、夏澄の息子で、9歳になる 「陽」 という名の少年がいます。秋吉は 「シューキチ」 と読みます。
わずか112枚の小説で3人の身近な者たちが死ぬという暴挙を事もなげにやった。自然に、そしてリアルに。その物語の破れ目から、茫洋とした未知な感情の景色が見えてきた本作を推す。(藤沢周)
小説が読む人を動かすのは、技術や知識ではなく書く人がこの現実に対して持っている違和感からくる熱意や孤独だ。この小説には書くという熱意があるから伝わった。私は作者の孤独な時間に共感した。(保坂和志)
この小説が 「あらすじを追うというよりも別のなにかを語ろうとしている」 そんな作品であるというのがわかります。秋吉に比して、登場する人物らは概して多くを語りません。それでいてわかれと、わかるはずだと声には出さずに。
そして、町田康の文章。
人の抱える切なさ、遣る瀬なさ、は定型化され詩になり、歌になる。本作ではそれが小説でしか描きえないやり方で描かれている。特に結末の近く、神の名が呼ばれるところの前後の独白は、もはやすべての人が心に抱えている、なんと呼んだらよいかわからない感情に迫っていて素晴らしい。
どうです? 読みたいのは山々だけど、読むとかならず深間に嵌まる。秋吉の、ハルオの、とう子の、夏澄の言動について行けずに、右往左往することになります。
ふたりはほぼ同時期に死んだ。
ハルオは酩酊しているところを、トラックに轢かれて死んだ。警察では事故と認定されたものの、自殺だったのかもしれない。すくなくとも、自暴自棄であったことはたしかだった。とう子さんは数週間後、ながい昏睡の末亡くなった。ハルオの死はしらずに死んだ。
梅生とスパーをやっても、勝てるきがしなかった。次戦を控えた梅生は、もう以前の梅生ではない。そこにあるのは純然たる技術で、純然たる意志で、おれの霊感とあそんでいるよゆうなんてないみたいだった。あくまでも機能的に、毎回ボコボコにされる。
「とうとう、おれとお前だけになってしまった」
梅生は、ボロボロと泣き、「かんがえないようにしている」 といった。
「考えないようにしているのに」
「ごめんな、でも、パンチでぜんぶわかるから。コミュニケーションを削いだお前のパンチは、すごいぞ。きっと勝てる。もうおれをみてないんだな」
「なんだ、秋吉さん、スピリチュアルくそボクサー志望っすね! 」
梅生は泣き笑いした。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆町屋 良平
1983年東京都生まれ。
作品 2016年、「青が破れる」で第53回文藝賞を受賞。
関連記事
-
-
『大人になれない』(まさきとしか)_歌子は滅多に語らない。
『大人になれない』まさき としか 幻冬舎文庫 2019年12月5日初版 大人になれない (幻
-
-
『赤頭巾ちゃん気をつけて』(庄司薫)_書評という名の読書感想文
『赤頭巾ちゃん気をつけて』庄司 薫 中公文庫 1995年11月18日初版 赤頭巾ちゃん気をつけ
-
-
『宇喜多の捨て嫁』(木下昌輝)_書評という名の読書感想文
『宇喜多の捨て嫁』木下 昌輝 文春文庫 2017年4月10日第一刷 宇喜多の捨て嫁 (文春文庫
-
-
『一億円のさようなら』(白石一文)_書評という名の読書感想文
『一億円のさようなら』白石 一文 徳間書店 2018年7月31日初刷 一億円のさようなら (文芸書
-
-
『噂』(荻原浩)_書評という名の読書感想文
『噂』荻原 浩 新潮文庫 2018年7月10日31刷 噂 (新潮文庫) 「レインマンが出没し
-
-
『あのこは貴族』(山内マリコ)_書評という名の読書感想文
『あのこは貴族』山内 マリコ 集英社文庫 2019年5月25日第1刷 あのこは貴族 (集英社
-
-
『月魚』(三浦しをん)_書評という名の読書感想文
『月魚』三浦 しをん 角川文庫 2004年5月25日初版 月魚 (角川文庫) 古書店 『無窮
-
-
『あちらにいる鬼』(井上荒野)_書評という名の読書感想文
『あちらにいる鬼』井上 荒野 朝日新聞出版 2019年2月28日第1刷 あちらにいる鬼
-
-
『静かな雨』(宮下奈都)_書評という名の読書感想文
『静かな雨』宮下 奈都 文春文庫 2019年6月10日第1刷 静かな雨 (文春文庫)
-
-
『もう「はい」としか言えない』(松尾スズキ)_書評という名の読書感想文
『もう「はい」としか言えない』松尾 スズキ 文藝春秋 2018年6月30日第一刷 もう「はい」