『悪の血』(草凪優)_書評という名の読書感想文

『悪の血』草凪 優 祥伝社文庫 2020年4月20日初版

悪の血 (祥伝社文庫)

和翔は十三歳の時に母親を捨てた。二十歳の今も家なんてない。ドラッグの売人として生きる和翔だったが、宝物がいた。悪友基生の妹の潮音だ。俺らとは別の生き方をさせる - 和翔と基生はシャブを売り、潮音を名門女子大に行かせることができた。ところが入学の直後、潮音は凶悪なインカレサークルの餌食となりレイプされる。和翔と基生は、首謀者への復讐を決意するが。(祥伝社文庫)

悪の血は、草凪優が文庫書き下ろし形式で綴った、昏い情念の物語だ。
主人公の佐藤和翔は、二十歳になったばかりのチンピラだ。仕事はシャブの密売だが、末端で人に使われているような身分では、たいした収入があるわけでもない。そんな和翔にも生きがいというべきことがある。たった一人の親友である辻坂基生の妹、潮音に幸せになってもらうことだ。だから基生と協力して資金を捻出し、私立の女子大に入学させた。受験を突破できるよう、塾の費用まで出したのである。シャブを売って稼いだ、綺麗とはいえない金だが。

その潮音の誕生日の夜に事件が起きた。お祝いをするために基生と二人で待っていた五反田のカラオケボックスに、潮音は遅れてやってきた。着衣や髪が乱れ、顔を晴らした無惨な姿で。二人の前で、彼女は悲鳴をあげて暴れはじめる。

サークルの新歓コンパに参加した女子学生を、上級生が複数で輪姦する。
偏差値の高さを誇る大学でそうした事件が起き、各種メディアで騒がれたことをご記憶の方も多いだろう。潮音の身にも、そんな許しがたいことが起きたのだという。
(以下略/解説より)

実は - 正直に言いますと、この本は読もうと思って買った本ではありません。(恥ずかしくて理由は言えませんが) 別の人の本と勘違いして買ったものです。ですから - (解説にある) 以下の文章を読むまでは、どんな作家の、どんな作品なのか、何も知りませんでした。

- 本書で初めて草凪優作品を読む人がいるかもしれない。簡単に作歴を紹介しておこう。草凪は1967年生まれであり、日本大学芸術学部を中退後、2004年に官能小説 『ふしだら天使』 (双葉文庫) で作家デビューを果たしている。そこに至るまでにさまざまな職を経ており、映画監督を目指していた時期もあるという。草凪の小説を読んでいると、妙に懐かしさを覚えることがある。おそらくはかつてのATGや日活系の青春路線作品を観たときの記憶を、こちらが重ねてしまっているのだろう。たとえば東陽一監督 『サード』 のような。初めにも書いたが、草凪作品を読むと悶々として寝つけないことがあった若き日を思い出す。『サード』 の中に、永島敏行演じる主人公が鑑別所で自慰に耽る有名な場面があるが、あのあたりに表現者・草凪優の源流はあるのではないかと思う。(P263.264)

帯文にある細かい文字を改めて見ると、
官能の四冠王が放つ、渾身の犯罪小説!
★「この文庫がすごい! 2005年版」 官能文庫大賞
★2010年 「この官能文庫がすごい! 」 大賞
★21世紀最強の官能小説大賞
★第1回 「裏」 八重洲本大賞

- とあります。おいおい、これはもしやエロさ全開、全編濡れ場の、昔読んだ某週刊誌の連載のような、後ろめたさに人に隠れて読むような代物かと思いきや、ページを捲ると、まるで違う話だというのがわかります。

この本を読んでみてください係数 80/100

悪の血 (祥伝社文庫)

◆草凪 優
1967年東京生まれ。
日本大学芸術学部中退。

作品 「ふしだら天使」「どうしようもない恋の唄」「不倫サレ妻慰めて」「ルーズソックスの憂鬱」等

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