『愛されなくても別に』(武田綾乃)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2023/08/16
『愛されなくても別に』(武田綾乃), 作家別(た行), 書評(あ行), 武田綾乃
『愛されなくても別に』武田 綾乃 講談社文庫 2023年7月14日第1刷発行
“幸せ“ じゃなくたって、私たちは生きていく。愛情は、すべてを帳消しにできる魔法じゃない。家族、友人、お金、愛 - 本当に必要なものを問う、シスターフッドの傑作。
大学の学費と毎月家に入れる八万円を稼ぐため、日夜バイトに明け暮れる宮田陽彩。唯一の家族である母は浪費家で、友達もおらず、遊ぶ時間もない。そんな宮田の空虚な日常は、父親が殺人犯だと噂される同級生・江永雅と出会ったことで一変する! 心ふるわすシスターフッドの傑作。吉川英治文学新人賞受賞作。(講談社文庫)
※シスターフッド:姉妹愛を意味する英語。女性同士の連帯と訳されることもある。(Wikipedia)
宮田と江永のほかにもう一人、木村もまた同様に、華やぐべきはずの学生時代にあって、およそ真逆のような日々を送っています。というか、三人は三様に、並の大学生にはあるまじき事情を抱えています。皆が孤独で、その元凶は親にありました。できるなら、親を捨てたいと考えています。
孤独を関係性のなかでほどいていく営み。それが作家・武田綾乃の主題であることを、本書はまざまざと見せつける。
本作の主人公・宮田は、コンビニのバイトで月二十万ほどを稼ぐ女子大生である。彼女は、バイト先の同僚から 「大学生なのになぜそんなにバイトに精を出しているのか」 と訝しがられている。しかし彼女にはバイトに精を出さざるを得ない事情があった。自分で学費を払い、家にもお金を入れているからだ。彼女の母親は、娘に生活を依存していた。
バイトに忙しい宮田は、大学の授業も休んでしまう時があり、友達や恋人をつくったり、サークル活動をしたりする余裕がない。しかし、とあるきっかけから、同じ大学に通うバイト先の同僚・江永と関わることになる。江永もまた、家庭環境にかなり問題を抱えた女子大生だったのである。
大学生の貧困問題をはじめとして、毒親、性風俗、宗教にハマる少女など、現代の若者を取り巻く社会問題を煮詰めたような物語ではある。しかしただの貧困ルポルタージュに終始しているわけではない。武田綾乃は、彼女たちの、孤独に焦点を当てる。(解説より)
※陽彩の母は、別れた夫から入るはずだった養育費の代わりに毎月8万円、当の陽彩に家に入れろと言ったのでした。加えて自分の学費は自分で払い、おまけに家事のすべてを押し付けたのでした。
雅の父は、過去に人を殺したことがあると噂されています。生きるため、母から身売りを強要され、そのうち雅はそれが “癖” になります。
木村水宝石の家は資産家でした。母は毎月一度九州からやってきて、あれやこれやと娘の世話を焼きます。その度が過ぎても、水宝石はどうすることもできません。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆武田 綾乃
1992年京都府宇治市生まれ。
同志社大学文学部卒業。
作品 第8回日本ラブストーリー大賞最終候補作に選ばれた 『今日、きみと息をする。』 が2013年に出版されデビュー。『響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏学部へようこそ』 がテレビアニメ化され話題に。他に 「君と漕ぐ」 シリーズ、石黒くんに春は来ない」「青い春を数えて」など
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