『雪が降る』(藤原伊織)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/06 『雪が降る』(藤原伊織), 作家別(は行), 書評(や行), 藤原伊織

『雪が降る』藤原 伊織 角川文庫 2021年12月25日初版

没後15年記念〉 史上初の乱歩賞&直木賞のW受賞を成し遂げた、不出世の偉才・藤原伊織による至高の短編集。

ギャンブルに溺れ、自堕落な日々を過ごす会社員・志村。彼の元に、1通のメールが届く。〈母を殺したのは、志村さん、あなたですね〉 メールの送り主は、かつて愛した女性・陽子の息子だった - 。訪ねてきた少年とともに、志村は目を背け続けてきた彼女との記憶を辿り始める。その末に明らかになる、あまりにも切ない真実とは (「雪が降る」)。不朽の名作 『テロリストのパラソル』 の著者による、6編を収録した短編集。解説・黒川博行 (角川文庫)

目次
台風
雪が降る
銀の塩
トマト
紅の樹
ダリアの夏

帯に大きく、黒川博行氏絶賛!!  と書いてあります。「とにかく巧い。これは掛け値なしの感想だ。」 と。もしも 「黒川博行」 ではなかったら、たぶん私はこの本を買わなかったと思います。

藤原伊織をわたしは “イオリン” と呼ぶ。イオリンはわたしよりひとつ年上だが、わたしのことを “おっちゃん” と呼ぶ。イオリンの本名は利一といい、これをアルファベットで書いて文字を並べかえると、”IORI” になるのだと、本人はいう。”RIICHI” には “O” がないやんけ、と思うのだが、わたしも五十をすぎたオトナだから、あえて反論はしない。

わたしがイオリンと知りあったのは、彼が 『テロリストのパラソル』 で江戸川乱歩賞と直木賞をダブル受賞したあとだった。イオリンがなにかのエッセイに、「乱歩賞という満貫を自模ったら裏ドラがのって、直木賞という倍満になった」 というふうに書いていたのを読んで、これはそうとうの麻雀好きやな、と、わたしは手ぐすねをひき、担当編集者を通して対戦を申し込んだのである。

イオリンと親しくなって、共通するところがたくさんあると分かった。彼は大阪生まれで市内の高津高校という進学校に入り、美術部に所属して油絵を描いていた。コンクールに何度も入賞するほどの腕だったという。当時のクラブ顧問のS先生はわたしの羽曳野市の家のすぐ近くに住んでいて、いまはわたしのよめはんといっしょに毎週、デッサン会をしている。わたしとよめはんは京都芸大の出身だが、高津高校からも多くの学生が入学し、イオリンを知っている連中も何人かいた。イオリンは頭がよすぎたために芸大には行けず、東大に入って学生運動と麻雀にのめりこんだらしい。ちなみにわたしは、頭の形はいいのだが中身がともなわず、芸大にしか行けなくて競馬と麻雀にのめりこんだ。

今回の角川文庫の前に発行された講談社版に載った黒川氏の解説のうち、直接小説とは関係ない部分をあえて選んで紹介しています。(こっちの方が断然面白い! )

でも、安心してください。作品それぞれの解説は、後にきちんと書いてあります。表題作のみ、紹介しておきたいと思います。※ややネタバレぎみですが、そこはご了承を。

雪が降る』- 企業小説といえるだろう。人間模様にイオリンが勤めている広告代理店の知識が生かされている。小さな起伏に大きなドラマがある。
陽子の残した未発信のメール。〈志村さん。このまえは、あなたと最初からいっしょに 「ランニング・オン・エンプティー」 を見たかった。そしてきょう、もし会えれば最高のセックスをしたい。してみたい。したかった。してください。これから私は横浜にいきます〉
ここがいい。めちゃくちゃいい。
ビデオショップでリバー・フェニックスの 『ランニング・オン・エンプティー』 をレンタルしよう。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆藤原 伊織
1948年大阪生まれ。2007年、食道癌のため59歳で永眠。
東京大学文学部仏文科卒業。

作品 「ダックスフントのワープ」「テロリストのパラソル」「てのひらの闇」「ダナエ」「シリウスの道」「ひまわりの祝祭」等

関連記事

『悪口と幸せ』(姫野カオルコ)_書評という名の読書感想文

『悪口と幸せ』姫野 カオルコ 光文社 2023年3月30日第1刷発行 美貌も 知名

記事を読む

『八日目の蝉』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『八日目の蝉』角田 光代 中央公論新社 2007年3月25日初版 この小説は、不倫相手の夫婦

記事を読む

『遊佐家の四週間』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文

『遊佐家の四週間』朝倉 かすみ 祥伝社文庫 2017年7月20日初版 羽衣子(ういこ)の親友・みえ

記事を読む

『夜明けの音が聞こえる』(大泉芽衣子)_書評という名の読書感想文

『夜明けの音が聞こえる』大泉 芽衣子 集英社 2002年1月10日第一刷 何気なく書棚を眺め

記事を読む

『山中静夫氏の尊厳死』(南木佳士)_書評という名の読書感想文

『山中静夫氏の尊厳死』南木 佳士 文春文庫 2019年7月15日第2刷 生まれ故郷

記事を読む

『私が殺した少女』(原尞)_書評という名の読書感想文

『私が殺した少女』 原 尞 早川書房 1989年10月15日初版 私立探偵沢崎の事務所に電話をして

記事を読む

『メタモルフォシス』(羽田圭介)_書評という名の読書感想文

『メタモルフォシス』羽田 圭介 新潮文庫 2015年11月1日発行 その男には2つの顔があった

記事を読む

『部長と池袋』(姫野カオルコ)_書評という名の読書感想文

『部長と池袋』姫野 カオルコ 光文社文庫 2015年1月20日初版 最近出た、文庫オリジナル

記事を読む

『素敵な日本人』(東野圭吾)_ステイホームにはちょうどいい

『素敵な日本人』東野 圭吾 光文社文庫 2020年4月20日初版 一人娘の結婚を案

記事を読む

『おはなしして子ちゃん』(藤野可織)_書評という名の読書感想文

『おはなしして子ちゃん』藤野 可織 講談社文庫 2017年6月15日第一刷 理科準備室に並べられた

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『海神 (わだつみ)』(染井為人)_書評という名の読書感想文

『海神 (わだつみ)』染井 為人 光文社文庫 2024年2月20日

『百年と一日』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文

『百年と一日』柴崎 友香 ちくま文庫 2024年3月10日 第1刷発

『燕は戻ってこない』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『燕は戻ってこない』桐野 夏生 集英社文庫 2024年3月25日 第

『羊は安らかに草を食み』(宇佐美まこと)_書評という名の読書感想文

『羊は安らかに草を食み』宇佐美 まこと 祥伝社文庫 2024年3月2

『逆転美人』(藤崎翔)_書評という名の読書感想文

『逆転美人』藤崎 翔 双葉文庫 2024年2月13日第15刷 発行

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑