『山亭ミアキス』(古内一絵)_書評という名の読書感想文

『山亭ミアキス』古内 一絵 角川文庫 2024年1月25日 初版発行

マカン・マランシリーズの著者が贈る、少し怖くて不思議な愛の物語。

日常を忘れて、おくつろぎください。心に悩みを抱える人が迷い込む、小さな宿。暖かい部屋に美味しい料理、そして風変わりな従業員がおもてなしします。

森の奥深く、青い湖のそばに佇む 「山亭ミアキス」。ここに辿り着くのは、現実から逃げ出したい人ばかり。アイドルのトラブル処理に奔走するマネージャー、父親になる責任を負いたくない男、部活で顧問のパワハラに疲弊する少年・・・・・・・。暖炉の火が燃えるロビーでオーナーが語る話や絶品料理を堪能し、日常を忘れる幸せ。だが、意外な形で客たちが向き合う容赦ない真実とは - ? 未来に立ち向かう勇気をくれる、心震える物語。(角川文庫)

迷いを抱えた人は、導かれるようにして、自ずとそこへたどり着きます。山亭ミアキスには、どこか普通の人とは違う、風変わりなオーナーや従業員がいました。

それもそのはずで、彼らは元々猫で、宿を求めて来た人をもてなすために、化けて人になりすましていたのでした。手厚く迎え、美味な料理を振舞ったのは理由があったのですが、来た人はそれを知りません。それでも、人は十分癒されたのでした。

【目次】

第一話 競わせる女
第二話 逃げる男
第三話 抗う女
第四話 隠れる少年
第五話 背負う女

物語は地方都市の巨大な平面駐車場に植えられた、一本の楠の上にいる黒猫の視点から始まった。そこで猫は、偶然か必然か、ある少女の命が失われる瞬間を目撃してしまう。そして少女の瞳に映る青く澄んだ湖をじっと見つめていると、次第に物語の舞台はそばに佇む 「山亭ミアキス」 へと変わっていく - 。

山亭を経営するのは、人間の姿に化けた猫たちだ。艶やかな黒髪のオーナーをはじめ、個性豊かな従業員たちが働いている。そこへ訪れる迷いを抱えた人間たち。彼らはハラスメントや貧困、差別、ブラック労働にジェンダー問題と、さまざまな理由で苦しんでいた。

しかし、猫たちは彼らの悩みを解決するわけではない。彼らに猫の伝説を語り、贅沢な料理を振る舞い、しまいには精気を吸い取ってしまうのだ。そうして五篇の物語は、いつしか奇妙に絡み合っていく。

Ж

- 私は何度も本作を読み返し、過去の古内作品も読み漁ったのだが、本作はこれまでの古内作品の中でも、特に強く著者の声が聞こえてくるように思われた。印象に残った言葉がある。

“助けたいのはお前ではない。声なき小さな者だ。“

これは湖畔に立つ少女の魂を救おうとする黒猫のセリフだ。ここでの 「声なき小さな者」 というのは、少女のことを指している。とても胸にくる場面だった。

だが、果たしてこのセリフ、少女のことだけを指しているのだろうか・・・。(解説より抜粋)

※言わずもがなですが、人と猫との付き合いは昨日今日に始まったわけではありません。長い長い歴史があり、今に至っています。世界のありとあらゆる場所と時代で、猫は人と共に生き、人に虐げられてもきたのでした。今ある出来事と並行し、物語にはそれが書いてあります。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆古内 一絵
1966年東京都生まれ。
日本大学芸術学部映画学科卒業。

作品 「快晴フライング」「風の向こうへ駆け抜けろ」「蒼のファンファーレ」「痛みの道標」「花舞う里」他

関連記事

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(ブレイディみかこ)_書評という名の読書感想文

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』ブレイディみかこ 新潮文庫 2021年7月1日発行

記事を読む

『純喫茶』(姫野カオルコ)_書評という名の読書感想文

『純喫茶』姫野 カオルコ PHP文芸文庫 2016年3月22日第一刷 あれは、そういうことだっ

記事を読む

『少年と犬』(馳星周)_書評という名の読書感想文

『少年と犬』馳 星周 文藝春秋 2020年7月25日第4刷 傷つき、悩み、惑う人び

記事を読む

『想像ラジオ』(いとうせいこう)_書評という名の読書感想文

『想像ラジオ』いとう せいこう 河出文庫 2015年3月11日初版 この物語は、2011年3

記事を読む

『カルマ真仙教事件(中)』(濱嘉之)_書評という名の読書感想文

『カルマ真仙教事件(中)』濱 嘉之 講談社文庫 2017年8月9日第一刷 上巻(17.6.15発

記事を読む

『地獄への近道』(逢坂剛)_書評という名の読書感想文

『地獄への近道』逢坂 剛 集英社文庫 2021年5月25日第1刷 お馴染み御茶ノ水

記事を読む

『新宿鮫』(大沢在昌)_書評という名の読書感想文(その1)

『新宿鮫』(その1)大沢 在昌 光文社(カッパ・ノベルス) 1990年9月25日初版 『新宿

記事を読む

『侵蝕 壊される家族の記録』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文

『侵蝕 壊される家族の記録』櫛木 理宇 角川ホラー文庫 2016年6月25日初版 ねえ。 このう

記事を読む

『白い衝動』(呉勝浩)_書評という名の読書感想文

『白い衝動』呉 勝浩 講談社文庫 2019年8月9日第1刷 第20回大藪春彦賞受賞作

記事を読む

『試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。』(尾形真理子)_書評という名の読書感想文

『試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。』尾形 真理子 幻冬舎文庫 2014年2月10日初版 年

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『オーブランの少女』(深緑野分)_書評という名の読書感想文

『オーブランの少女』深緑 野分 創元推理文庫 2019年6月21日

『揺籠のアディポクル』(市川憂人)_書評という名の読書感想文

『揺籠のアディポクル』市川 憂人 講談社文庫 2024年3月15日

『海神 (わだつみ)』(染井為人)_書評という名の読書感想文

『海神 (わだつみ)』染井 為人 光文社文庫 2024年2月20日

『百年と一日』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文

『百年と一日』柴崎 友香 ちくま文庫 2024年3月10日 第1刷発

『燕は戻ってこない』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『燕は戻ってこない』桐野 夏生 集英社文庫 2024年3月25日 第

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑