『夕映え天使』(浅田次郎)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/06
『夕映え天使』(浅田次郎), 作家別(あ行), 書評(や行), 浅田次郎
『夕映え天使』浅田 次郎 新潮文庫 2021年12月25日20刷

泣かせの浅田次郎 史上最多涙小説! 私は6編全部泣きました・・・
東京の片隅で、中年店主が老いた父親を抱えながらほそぼそとやっている中華料理屋 「昭和軒」。そこへ、住み込みで働きたいと、わけありげな女性があらわれて・・・・・「夕映え天使」。定年を目前に控え、三陸へひとり旅に出た警官。漁師町で寒さしのぎと喫茶店へ入るが、目の前で珈琲を淹れている男は、交番の手配書で見慣れたあの顔だった・・・・・「琥珀」。人生の喜怒哀楽が、心に沁みいる六篇。(新潮文庫)
[目次]
1.夕映え天使
2.切符
3.特別な一日
4.琥珀
5.丘の上の白い家
6.樹海の人
・さびれた商店街の小さな中華料理店に、天使のように舞い降り、儚い思い出だけを残して突然去った女・純子のことを描く表題作 - 「夕映え天使」
・父母が離婚し、祖父に引き取られた少年が繰り返す 「さよなら」 が胸に迫り、最後に少年が、命を絞るほどつらい思いのすえに声に出す 「さよなら」 が生きていくことの勇気を示す - 「切符」
・いっけん平凡なサラリーマンの定年の一日を書いていると思いきや、SF小説の味わいがある - 「特別な一日」
・女房子供に逃げられ、他人に誇るほどの手柄もないまま定年を迎える老警官が、みちのく一人旅で、指名手配の犯人と遭遇する 「琥珀」 では、変わりやすい三陸の天候がもたらした琥珀の光が、人間の心に思いもかけない変化をもたらし、老警官と犯人の人生模様が鮮やかに交錯する。そして、老警官はある決断をする。
・子供の頃、鬼ごっこだかをして遊んでいた 「僕」 の前に、妖精のように現れた少女との出会いを描いた 「丘の上の白い家」 では、丘の上の天上界に住む少女、丘の下の、不幸のさまをさまざまに異にしている貧しい少年たちのイメージが一閃、交わる。そこである悲劇が起きる。
そして最終話 - 自衛隊員だったころ、演習で遭遇した不思議な出来事を回想し、寓話性がある - 「樹海の人」
(各作品の要約は鵜飼哲夫氏の解説から抜粋し、掲載しています)
千香子の家はガードの脇の焼芋屋だ。まるで終戦直後のようなバラックが犇めいていて、リヤカーや犬小屋やさまざまのガラクタが線路ぎわの道路に溢れ出ているただなかに、ほんの一畳ばかりの店があった。看板も何もない店先に焼芋の大きな壺が置いてあり、太った母親がいつも暇そうに座っていた。
千香子には父がいなかった。
*
「きのうのことなら、誰にも言わないよ」
駅の雑踏に屈みこんで、千香子はずっと心がかりだったことをようやく言うように、そっと耳打ちしてくれた。「ほんとに? 」
「ほんとよ。約束する。そのかわり・・・・・・・」
と、千香子は立ち上がると、大人びたしぐさで髪を結び直した。「あたしの秘密も、ヒロシくんにだけ教えてあげる。誰にも言わないって、約束してね」
広志が肯くと、千香子は伝言板の隅にしっかりとしたチョークの字を書いた。「何それ。季節の季」
「ちがうわ。一本足んない。あたしのほんとの苗字」
「どうしてそれが秘密なのさ」
「言っちゃいけないって。言うといじめられるんだって。ヒロシくんはいじめないから」
掌ですばやく字を消し去ると、千香子は何ごともなかったようにまたしゃがみこんだ。
第二話 「切符」 例えば。幼い二人が交わす会話に強く胸が締め付けられるのは、どうにもならない運命に堪らず涙するのは、私が歳を取ったからに違いありません。
この本を読んでみてください係数 85/100

◆浅田 次郎
1951年東京都中野区生まれ。
中央大学杉並高等学校卒業。
作品 「地下鉄に乗って」「鉄道員」「壬生義士伝」「お腹召しませ」「中原の虹」「帰郷」「獅子吼」他多数
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