『世界から猫が消えたなら』(川村元気)_書評という名の読書感想文

『世界から猫が消えたなら』川村 元気 小学館文庫 2014年9月23日初版

帯に「映画化決定!」とあります。えらく評判がよいようで、本屋へ行くと、目立った場所に平積みにしてあります。「小説だがむしろ哲学書なのではないか」- 文芸春秋には角田光代の、そんな感想が載っています。何かを得るためには、何かを失わなくてはならない - 文中には、極めて哲学的な文章が何度も登場します。

ほかにも数々の箴言や「時間」というものに対する解釈を述べ、花にはなぜいちいち名前が付いているんだろう、などと思索したりします。中で特に目を引いたのは、「人生は近くで見ると悲劇だけれど、遠くから見れば喜劇だ」といったフレーズでしょうか。

苦々しい思いで眠れない夜。頭を抱え悩みまくったあれやこれや。誰しも経験するそれらは、過ぎ去ってみて振り返ると、大抵は笑い飛ばせばすむような瑣末なことだったような気がします。

30歳で医者から余命を告げられる主人公ほどではないにせよ、誰の人生にも大なり小なりの悲劇はつきものでしょう。しかし、他から見ると、それはまるで良く出来た「喜劇」のようにしか見えないのかも知れません。

・・・・・・・・・

一日分の命と引き換えに、この世から何か一つを消し去る...それは、主人公と同じ姿の悪魔が現れて、明日死ぬ運命の「僕」に持ちかけた奇妙な取引でした。

月曜日に悪魔はやってきて、火曜日にまず電話が消えます。何を消すかは悪魔次第。「僕」に与えられた、一週間限定の延命措置です。電話の次は映画、その次には時計がこの世から消えて無くなります。元々人間が生み出して人間の都合に合わせて存在していたものが消えたとき、その後の暮らしは一体どんな風に変化してしまうのでしょう。

小説は、「僕」と黄色いアロハシャツにショートパンツ、頭の上にサングラスを乗せた陽気な悪魔との軽妙な掛け合いで進んで行きます。この悪魔は「僕」と同じ姿をしています。しかし、物の好みや性格は全く違っています。(その理由は後半に明らかになります)

死ぬ間際にもう一度電話で話したい人、それは誰ですかと訊ねられたら、あなたなら誰と答えるでしょう・・・・「僕」が選んだ人は、大学時代に付き合っていた初恋の女性でした。次に「僕」が会いたいと願ったのは亡くなった母、訳あって会わなくなって久しい父でした。

人は何かを失って、初めて気付くことがたくさんあります。「僕」は、今まであたり前のように存在した電話や映画などがこの世から消え去るたびに、改めて深く自分の人生を思い起こすことになります。陽気な悪魔と猫とで過ごす、「僕」にとって最後の7日間の物語です。

この本を読んでみてください係数 80/100


◆川村 元気

1979年横浜生まれ。

上智大学文学部新聞学科卒業。

2001年東宝入社。映画プロデューサー、絵本作家で『世界から猫が消えたなら』は初の小説。

作品 映画「電車男」「告白」「悪人」「モテキ」等を制作。絵本「ティニーふうせんいぬのものがたり」「ムーム」など

◇ブログランキング

応援クリックしていただけると励みになります。
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

関連記事

『純子』(赤松利市)_書評という名の読書感想文

『純子』赤松 利市 双葉社 2019年7月21日第1刷 四国の辺鄙な里に生まれた純

記事を読む

『幸福な遊戯』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『幸福な遊戯』角田 光代 角川文庫 2019年6月20日14版 ハルオと立人と私。

記事を読む

『熱源』(川越宗一)_書評という名の読書感想文

『熱源』川越 宗一 文藝春秋 2020年1月25日第5刷 樺太 (サハリン) で生

記事を読む

『月と雷』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『月と雷』角田 光代 中央公論新社 2012年7月10日初版 大人になっても普通の生活ができ

記事を読む

『夏物語』(川上未映子)_書評という名の読書感想文

『夏物語』川上 未映子 文春文庫 2021年8月10日第1刷 世界が絶賛する最高傑

記事を読む

『諦めない女』(桂望実)_書評という名の読書感想文

『諦めない女』桂 望実 光文社文庫 2020年10月20日初版 失踪した六歳の少女

記事を読む

『鵜頭川村事件』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文

『鵜頭川村事件』櫛木 理宇 文春文庫 2020年11月10日第1刷 墓参りのため、

記事を読む

『幸せになる百通りの方法』(荻原浩)_書評という名の読書感想文

『幸せになる百通りの方法』荻原 浩 文春文庫 2014年8月10日第一刷 荻原浩の十八番、現代社

記事を読む

『月の砂漠をさばさばと』(北村薫)_書評という名の読書感想文

『月の砂漠をさばさばと』北村 薫 新潮文庫 2002年7月1日発行 9歳のさきちゃんと作家のお

記事を読む

『だれかのいとしいひと』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『だれかのいとしいひと』角田 光代 文春文庫 2004年5月10日第一刷 角田光代のことは、好きに

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『羆嵐』(吉村昭)_書評という名の読書感想文

『羆嵐』吉村 昭 新潮文庫 2026年12月20日 62刷発行

『妊娠カレンダー』(小川洋子)_書評という名の読書感想文

『妊娠カレンダー』小川 洋子 文春文庫 2020年12月20日 第2

『カフェーの帰り道』(嶋津輝)_書評という名の読書感想文

『カフェーの帰り道』嶋津 輝 東京創元社 2026年1月23日 4版

『きっと君は泣く』(山本文緒)_書評という名の読書感想文

『きっと君は泣く』山本 文緒 角川文庫 2026年1月25日 改版初

『彼女たちが隠したかったこと』(一木けい)_書評という名の読書感想文

『彼女たちが隠したかったこと』一木 けい 角川文庫 2026年1月2

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑