『続々・ヒーローズ (株)!!! 』(北川恵海)_仕事や人生に悩む若いあなたに

『続々・ヒーローズ (株)!!! 』北川 恵海 メディアワークス文庫 2019年12月25日初版

ごく普通の青年・修司が、ヒーローをつくるお手伝いを始めて早数年。クセ者揃いの依頼人のために奮闘する毎日に、ようやく慣れてきた。しかし今回、修司が任されたのは、ヒーローズ (株) の新入社員候補の教育係兼面接官!? 新入社員にかつての自分を重ねながら、将来のことを考える修司に舞い込んだのは、戦隊ヒーローになりたいというおじいさんからの依頼だったが - 。立ち止まることなく、明日に進む人たちの背中を押してくれる人生応援ストーリー。(メディアワークス文庫)

待望のシリーズ第3弾。ストーリーにはお決まりの、あるパターンがあります。『ヒーローズ(株)!!! 』 『続・ヒーローズ(株)!!! 』 を読んだ方なら、それが何なのかはいわずもがなのことでしょう。

なので、今回は試しに読んでみようと思うあなたにだけ、こんな感じの話ですよと。

- するとミヤビが突然、カーペットの端を指差した。
「修司さん、そのラインの上、真っすぐ歩けます? 」
何かの健康チェックだろうか。俺は立ち上ると、カーペットの端を踏んで歩いた。
「ドラえもんでこういう話があるんスよ」
ミヤビはお菓子ボックスからせんべいを選びながら言った。

「ドラえもんがのび太に 『畳のヘリを真っすぐ歩けるか? 』 って尋ねるんス。のび太は馬鹿にすんなって歩いてみせるんですよ。今の修司さんみたいに」
俺は自分の靴の下にあるカーペットのラインを改めて見下ろした。
「うんうん。それで? 」
「次にドラえもんはのび太を高い塀の上に連れていって 『じゃあここならどうだ』 って言うんス。のび太は塀から落ちちゃって、こんな高いとこ歩けるわけないって怒るんス。けど、ドラえもんは 『どうして? 』 って尋ねるんです」

「どうして? 」
「畳の縁より広いのになんで歩けないの? って」
「俺は再度自分の足元を見おろした。
「・・・・・・・たしかに」
「ね、不思議ッスよね。脳が勝手に 『高いところは歩けない』 って思い込んでるんスよ。低いブロックの上なら真っすぐに歩けるってのに。そう思うと余計なことしてくれんなよって思いません? 」
「脳に対して? 」
「そうッスよ。だいたい全体の三割しか使わせてくれないなんてケチくせーし、なんだその制約って感じじゃないッスかあ。せっかく重たいもん頭に乗せてんだから百パーセント使わせてくれりゃあいいのに。しかも余計なこと考えさせて、地面からちょっと離れただけで、平均台の上すらまともに歩かせてくれねえ」

「昔、高校で平均台の授業があったんスけどね。一メートル以上あるような、体操で使う高いやつ。彼女が全然できなくて。あっ彼女ってか今の奥さんね? 彼女と同じ高校だったんスよ」
「はいはい」
俺はお菓子ボックスを取り上げると、自分の椅子に座った。
「で、平均台のテストがあったから昼休みに練習に付き合ってたんスけど、ほんの少し手を添えてあげるだけですらすら歩けるんスよ。本当に少しッスよ。指先が触れるか触れないか程度の支えで、細くて高い場所を真っすぐ歩けるんスよ」

俺は思わず自分の手を見つめた。
「なんか、人間って脆いなあって思って」
ふと見るとミヤビも自分の手を見つめていた。
「でも凄いなあって。こんなちっちゃな支えで真っすぐ前を向けるんだなって。オレのこんな細い指一本を信用してくれるだなって」(P53 ~ 56/一部略)

これは修司が任されたある仕事について、同僚のミヤビが悩む修司をみて突然話し出したところを抜き出しています。見た目も喋りも軽薄そのもののミヤビではありますが、彼が言わんとすることは、イコール、ヒーローズ (株) が目指すところにほかなりません。

もしも、あなたがこれを読んで、「なんか、いい話だな・・・・・・・」 と感じたら、ぜひとも一度この本を手に取ってみてください。読むと、きっと胸に刺さるはずです。

※ミヤビ・・・・ヒーローズの社員。修司の先輩。チャラい。元カリスマ美容師。ちなみにミヤビの妻・祥子は社長の娘で、ヒーローズ本社の受付をしています。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆北川 恵海
1981年大阪府吹田市生まれ。

作品「ちょっと今から仕事やめてくる」「ヒーローズ(株)!!! 」「続・ヒーローズ(株)!!! 」「星の降る家のローレン」「ちょっと今から人生かえてくる」など

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