『知らない女が僕の部屋で死んでいた』(草凪優)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
最終更新日:2024/01/08
『知らない女が僕の部屋で死んでいた』(草凪優), 作家別(か行), 書評(さ行), 草凪優
『知らない女が僕の部屋で死んでいた』草凪 優 実業之日本社文庫 2020年6月15日初版
最下層の僕と高嶺の花だった彼女
目が覚めると、知らない女が自宅のベッドで、全裸で死んでいた。女は誰なのか、僕が殺したのか? 記憶を失った男は、女の正体を探る。前夜、神楽坂のバーでふたりで飲んだこと、女は中学時代の元同級生で、大企業の正社員であること、そして隠された暗黒の過去・・・・・・・。ふたりの間に何が起こったのか!? 怒涛の恋愛×官能×サスペンス、一気読み注意!! (実業之日本社文庫)
官能小説の第一人者、草凪優の 『知らない女が僕の部屋で死んでいた』 を読みました。『悪の血』、『どうしようもない恋の唄』 に続く三冊目。官能小説家が書く 「官能だけではない」 小説とはどんなものか? それを確かめてみたくなりました。
二人の主人公のうちの一人、南野蒼治は人と関わることが極端に苦手な人物で、かろうじて得た仕事がそれでした。それを今失おうとしています。彼は、いわゆる 「萌え絵」 を描くイラストレーターで、ゲームのキャラクターデザインなどを手掛けています。
蒼治は、過去にある悲惨な出来事を経験しています。そのせいでか、二次元の女性にしか興味が持てません。30歳になった今も実際のセックスに自信が持てず、女性と付き合うことなど、夢のまた夢の話でした。彼は、できれば死にたいと思っています。
もう一人の主人公・星奈千紗都と蒼治は中学時代の同級生でした。所沢西中では三年間ずっと同じクラスでしたが、特別仲がよかったわけではありません。千紗都は常にスクールカーストの上位層、その中でもトップに近い存在でした。
クラス委員を歴任し、成績もよければ運動神経も抜群、女子バレー部のエースであり、なによりその容姿がずば抜けていました。芸能プロダクションからスカウトがきている - そんな噂が絶えないほどの美少女でした。
そんな千紗都に対し、蒼治は最下層に位置していました。落ちこぼれだが不良にもなれない、中途半端なつまはじき者。登校し、授業を受け、給食を食べ、また授業を受けて下校する - その間、誰ともひと言も口をきかない日がざらにありました。
つまり、三年間同じクラスにいたとはいえ、蒼治と千紗都はほとんど接点がありません。何かにつけ 「立ち位置」 が違いすぎ、卒業して以来、二人は会ったこともなければ、SNSで繋がったこともありません。
そんな千紗都が、蒼治の部屋のベッドの上で、全裸のままで死んでいます。二人が十五年ぶりに再会した、翌日の朝のことです。
※さすがに “濡れ場” は特筆すべき出来栄えで、並大抵ではありません。映画ではないですが、はっきり言って “18禁” ものです。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆草凪 優
1967年東京生まれ。
日本大学芸術学部中退。
作品 「ふしだら天使」「どうしようもない恋の唄」「不倫サレ妻慰めて」「ルーズソックスの憂鬱」「悪の血」他
関連記事
-
『静かに、ねぇ、静かに』(本谷有希子)_書評という名の読書感想文
『静かに、ねぇ、静かに』本谷 有希子 講談社 2018年8月21日第一刷 芥川賞受賞から2年、本谷
-
『サンブンノニ』(木下半太)_書評という名の読書感想文
『サンブンノニ』木下 半太 角川文庫 2016年2月25日初版 銀行強盗で得た大金を山分けし、
-
『断片的なものの社会学』(岸政彦)_書評という名の読書感想文
『断片的なものの社会学』岸 政彦 朝日出版社 2015年6月10日初版 「この本は何も教えてくれな
-
『アトムの心臓 「ディア・ファミリー」 23年間の記録』(清武英利)_書評という名の読書感想文
『アトムの心臓 「ディア・ファミリー」 23年間の記録』清武 英利 文春文庫 2024年4月10日
-
『サンティアゴの東 渋谷の西』(瀧羽麻子)_書評という名の読書感想文
『サンティアゴの東 渋谷の西』瀧羽 麻子 講談社文庫 2019年5月15日第1刷
-
『祝山』(加門七海)_書評という名の読書感想文
『祝山』加門 七海 光文社文庫 2007年9月20日初版 ホラー作家・鹿角南のもとに、旧友からメー
-
『幾千の夜、昨日の月』(角田光代)_書評という名の読書感想文
『幾千の夜、昨日の月』角田 光代 角川文庫 2015年1月25日初版 新聞で文庫の新刊が出る
-
『そこにいるのに/13の恐怖の物語』(似鳥鶏)_書評という名の読書感想文
『そこにいるのに/13の恐怖の物語』似鳥 鶏 河出文庫 2021年6月20日初版
-
『三の隣は五号室』(長嶋有)_あるアパートの一室のあるある物語
『三の隣は五号室』長嶋 有 中公文庫 2019年12月25日初版 傷心のOLがいた
-
『ちょっと今から仕事やめてくる』(北川恵海)_書評という名の読書感想文
『ちょっと今から仕事やめてくる』北川 恵海 メディアワークス文庫 2015年2月25日初版 こ