『きみはだれかのどうでもいい人』(伊藤朱里)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
最終更新日:2024/01/07
『きみはだれかのどうでもいい人』(伊藤朱里), 伊藤朱里, 作家別(あ行), 書評(か行)
『きみはだれかのどうでもいい人』伊藤 朱里 小学館文庫 2021年9月12日初版

そこにあるのは、絶望か、希望か。人とわかりあうのは、こんなにも難しい。
地方の県税事務所に勤める、年齢も立場も異なる4人の女性たち。同期の休職で急遽異動させられかつての出世コースに戻ろうと細心の注意を払う若手職員の中沢環 (第1章・「キキララは二十歳まで」)、週に一度の娘との電話を心の支えに業務を適当に乗り切るベテランパートの田邊陽子 (第3章・「きみはだれかのどうでもいい人」) など、それぞれの見ている景色は同じようで、まったく違っていて・・・・・・・。職場で傷つき、傷つけたことのあるすべての人に贈る、共感度MAXの新感覚同僚小説! (小学館文庫)
目次
第一章 キキララは二十歳まで
第二章 バナナココアにうってつけの日
第三章 きみはだれかのどうでもいい人
第四章 Forget,but never forgive.
解説 島本理生
登場する4人の女性たちは、立場こそ違え、それぞれが県税にかかる “延滞案件” と深く関わっています。繰り返しする督促にもかかわらず、支払いを渋る納税者たちに、日々苦しめられています。裏切られたり、恨まれたりもしています。
中に事情により配置転換になった職員がいるにはいますが、いずれにせよ、ストレス抜きでは語れない - そんな職場で働く彼女たちの 、混じり合い交差するリアルな 「関係」 を描いた物語。
立場も年齢も能力も異なる女性が4人、さして広くもない職場で日々顔を突き合わせ、滞納する納税者たちの現状を踏まえ、且つ顔色を窺いながら、如何にして納税を促すべきか - 仕事とはいえ、そんなことばかりの毎日であったとしたらどうでしょう?
人それぞれに、それでなくてもあるはずの、口に出せないストレスがないわけがありません。
あなたが今いる職場のことを、思い出してください。似たようなことが、きっとあるはずです。過去に似た出来事があり、誰かが配置転換になり、誰かが職場を去るようなことが、一度ならずあったのではないですか?
その時、あなたはそこで (職場内で) どんな立場にいたのでしょう?
上司だったのですか。部下だったのですか。
正社員 (正職員) でしたか。それとも、パートタイマーだったのですか。
やむなく配置転換となった当事者だったのではないですか。あるいは逆に、配置転換となった当事者の後釜に穴埋めとしてやってきた (当事者よりも優秀な) 同期入社の社員だったりして。
いずれにせよ、そんな輪の中にアルバイトの須藤深雪だけがいません。
読み終えたとき、この小説の誠実さとは、なにか、と考えた。
それは、人はかならず誰もが傷ついていることでもなければ、人はかならず誰かを傷つけている、でもない。
「自分は」 かならず誰かを傷つけている、という自覚ではないだろうか。(島本理生)
残酷さと慈愛の両面を捉えた
この著者の視線は鋭く強く確かである -
ゾクッとするこの読み応えを
多くの読者と分かち合いたい! (内田剛/書店員)
この本を読んでみてください係数 85/100

◆伊藤 朱里
1986年静岡県浜松市生まれ。
お茶の水女子大学文教育学部卒業。
作品 2015年、「変わらざる喜び」 で第31回太宰治賞を受賞。同作を改題した 『名前も呼べない』 でデビュー。他の作品に 「稽古とプラリネ」「緑の花と赤い芝生」 がある。
関連記事
-
-
『完全犯罪の恋』(田中慎弥)_書評という名の読書感想文
『完全犯罪の恋』田中 慎弥 講談社 2020年10月26日第1刷 「人は恋すると、
-
-
『がん消滅の罠/完全寛解の謎』(岩木一麻)_書評という名の読書感想文
『がん消滅の罠/完全寛解の謎』岩木 一麻 宝島社 2017年1月26日第一刷 日本がんセンターに勤
-
-
『許されようとは思いません』(芦沢央)_書評という名の読書感想文
『許されようとは思いません』芦沢 央 新潮文庫 2019年6月1日発行 あなたは絶
-
-
『緑の花と赤い芝生』(伊藤朱里)_書評という名の読書感想文
『緑の花と赤い芝生』伊藤 朱里 小学館文庫 2023年7月11日初版第1刷発行 「
-
-
『高校入試』(湊かなえ)_書評という名の読書感想文
『高校入試』湊 かなえ 角川文庫 2016年3月10日初版 県下有数の公立進学校・橘第一高校の
-
-
『小さい予言者』(浮穴みみ)_書評という名の読書感想文
『小さい予言者』浮穴 みみ 双葉文庫 2024年7月13日 第1刷発行 表題作 「小さい予言
-
-
『鍵のない夢を見る』(辻村深月)_書評という名の読書感想文
『鍵のない夢を見る』辻村 深月 文春文庫 2015年7月10日第一刷 誰もが顔見知りの小さな町
-
-
『失はれる物語』(乙一)_書評という名の読書感想文
『失はれる物語』乙一 角川文庫 2006年6月25日初版 目覚めると、私は闇の中にいた。交通事故に
-
-
『後妻業』黒川博行_書評という名の読書感想文(その1)
『後妻業』(その1) 黒川 博行 文芸春秋 2014年8月30日第一刷 とうとう、本当にとう
-
-
『暗い越流』(若竹七海)_書評という名の読書感想文
『暗い越流』若竹 七海 光文社文庫 2016年10月20日初版 5年前、通りかかった犬に吠えられ飼
















